オフロード用のSUVの9割は街中で乗られている
1980年代後半。それまで「セダンタイプ」が中心だった自家用乗用車マーケットに「SUV」ブームが起き始めた。各社からSUVの新車が発売され、アウトドア好きの若者を中心にセダンからSUVに乗り換える人が続出した。
ある国産自動車メーカーは、そのブームに乗り遅れまいと、自社でもSUVの商品企画を開始し、手始めに現在SUVに乗っている人たちに対する定量リサーチを行った。
そこで面白いデータが出てきたのである。
自分の所有するSUVに「どこで乗っているか」という項目で、90%以上の人は「街の中で乗っている」という回答をしたのだ。
そもそもSUVとはオフロード向け四輪駆動車であり、オフロードでも走れるように開発されたものである。
しかし、アンケートをとってみると90%以上の人が街の中で走っていることがわかった。オフロード機能がほとんど使われていなかったのである。
そこで、その自動車メーカーでは「シティ仕様のSUV」を開発しようという話になったが、その商品企画が進行する傍ら、SUVユーザーにインタビューする「定性リサーチ」を並行して行った。そこで意外な事実が見えてくる。
「実際に乗っている時間の90%は街中でも、週末の短時間だけはオフロードを存分に楽しむためにSUVを買った」
「時間がなくてなかなかオフロードで乗る機会はないが“オフロード気分”を味わうためにSUVに乗っている」
という声が多かったのである。つまりSUVが「シティ仕様」にアレンジされたら「乗らない」という衝撃の答えが返ってきたのだ。
その会社はその定性リサーチの結果から、急遽オフロード用のSUVの商品企画に切り替えた。
このことからわかるように、数値で表されるデータはあくまでもデータなのである。
そこから何かしらの解を導き出す時には、単純にそのデータだけで判断してはいけない。
なぜそのようなデータになったのか? という「人間の気持ち」を理解した上で解を導き出さなければ、独りよがりな間違った解にたどり着いてしまうのだ。