事件後、連続結婚詐欺師の実家を訪ねると…
それにしても、なぜ橋本はまんまと騙されてしまったのか。前出の髙橋名誉教授は次のように話す。
「食と健康は深く関わりますが、食さえ良くすれば万病解決と考えること自体もフードファディズムです。そこそこの健康を求めて、ほどほどに食べる程度でいいのではないでしょうか。ほどほどに食べるとは、米飯、汁、肉か魚の一皿、野菜の一皿、あるいは主食としての穀類、主菜としての動物性食品、副菜としての植物性食品を献立として考えます。
煮る、焼く、いためるなどして、生鮮食品を煮炊きした食事を適度な量で食べることです。これで必要な栄養素はほぼ過不足なく摂取できます。そして、季節やその人の生理的状況、し好に応じて柔軟に食べればよいのです。この程度を心がければ、食で得られるそこそこの健康は望めるでしょう」
橋本の両親が住む実家を訪ねた。ちょうど庭の縁側に橋本の父親とみられる男性が座っていたので、訪問理由を告げると、「わしは息子とはしゃべらんから分からん。寺に行ったんで、ここにはいない」ということだった。
「寺ですか?」
「坊さんになったんだよ」
「事件後のことですか?」
「ああ……」
妻子に去られ、何もかも失った男は仏門へ
息子のことは妻にしか分からないというので、無理を承知で呼んでもらった。すると、品の良さそうな高齢の女性が玄関口に現れた。
あらためて訪問理由を告げ、橋本の現在のことを尋ねると、ポロポロと涙をこぼしながら話し始めた。
「もう迷惑をかけるから、ここにはいられないと言って、出家しました。比叡山に入り、日蓮さんに救ってもらったんです。『これからは人のために生きる』と言っていました。お母さんの顔を見ているのも辛いって……」
橋本には一人娘がいたが、妻は公判中に離婚して家を出ていった。実姉もいるが、事件を機に縁を切られたという。事件で何もかも失った男は、仏門に入るしかなくなったのだ。
「たまにお寺の行事で近くに来ると、家に寄ってくれます。今日も会いたいなァ……と思っていたところでした。ボランティアもやっていると聞いています。こちらから会いに行くことはできませんが……」