主観だらけの記事を書いたワケ

【ターザン】客観なんて信じてない。あんなもんカスですよ。

——カス(笑)。主観がすべて?

【ターザン】つまり「事実を報道する」なんて、その態度が間違ってるんですよ。事実なんか、どうだっていいんですよ! 大事なのは「どう見たか」なんだから。自分は、どう見たか。自分は、どう感じたか。自分は、どう考えたか。

ライバル誌の『週刊ゴング』は試合経過しか書いてないわけです。つまり自分で見てないし、自分で考えてないし、自分で思ってないんですよ。だから試合の評価も何もやらない、できないわけです。それはね、新聞でも週刊誌でも「個人の視点から書くなんて間違いだ」という不文律があったから。正体のわからない「事実」を報道することこそが「正しい」とされていた。俺は、そんなの冗談じゃなかったんですよ。つまんなくて。

だから、編集部員の書く原稿も署名記事にした上で、勝手に書いてもらったんですよ。

活字プロレスの始祖

——その「異端の編集哲学」は、誰から学んだんですか?

【ターザン】3人いますよ。まず、編集者としての基本的な考え方については、俺が『週プロ』の前にいた『週刊ファイト』の井上義啓編集長。つまり「主観でやれ」と。俺は井上プロレスでやった、だからお前は山本プロレスでやれ……とね。それが「活字プロレス」で、井上編集長は、その始祖なんですよ。

——ええ、ええ。

【ターザン】次に、学生時代に愛読していた『映画芸術』編集長で映画評論家の小川徹さん。この人からは「自分の視点で見ること、映画を別の角度から考えること」の重要性を学んだ。すべての映画には政治と性の問題が隠されているという考えを知ったのも小川さんからだけど、その影響で、プロレスについても「常識的な視点」ではなく、まったく違う切り口から斬り込んでいくことができたんです。

——なるほど。

アントニオ猪木から学んだこと

【ターザン】そして、それ以外のすべてを、アントニオ猪木から学んだ。

——おお……!

【ターザン】逆転の発想・反権力の精神・サプライズの重要性・アジテーションの思想・世間をひっかきまわすおもしろさ……そういったすべてを、猪木さんから学んだ。そして、それらは同時に「編集の道」に通じているんですよ。

写真=時事通信フォト
ボクシング世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリ対NWFヘビー級チャンピオン、アントニオ猪木の格闘技世界一決定戦。寝技で足を狙う猪木の戦法にアリが攻めあぐみ、引き分け、“最低の試合に最高のファイトマネー”だった(=1976年6月26日東京・日本武道館)

——編集者としての「ターザン山本!」をつくった、3本の柱……。なるほど、なるほど。ちなみに「雑誌の顔」である「表紙」については、何か一家言ございますか。編集長として。

【ターザン】ひとつは『週刊ゴング』と絶対に被らないこと。被っちゃったら、両者沈没。共倒れになっちゃうからね。でも『ゴング』はプロレス雑誌の常道を行く編集方針だったから、絶対に被ることはなかった。あちらはメインイベントでドカンとくる。それがわかってたから、簡単に予想できるんです。1週間を振り返って「『ゴング』は絶対こうくるはずだ、だったら俺たちはこうだ!」と。

——つまり『ゴング』の直球ストレートに対して『週プロ』は変化球で。