【ターザン】名前を出さずに黒子に徹して、ジャンルを盛り上げていく。それが編集者だと思われているからね。俺みたいなのがいたら、たちまちクビですよ。他の雑誌……たとえば相撲の雑誌だったら社長から電話で「舞の海が曙に勝ったぞ、表紙を差し替えろ!」とかあるでしょ。でも、当時の社長からするとプロレスはどうでもいいジャンルだったんです。だから、目をつけられてなかったんだよね。

——じゃ、その隙を突いて。

好きなことやったらバカ売れした

【ターザン】好きなことをやってたんですよ。俺がおもしろいと思うことだけをやった。そしたらバカ売れしたんです。で、バカ売れしたら資本主義の法則で誰も何も言えないんですよ。

『週プロ』の利益がベースボール・マガジン社の経営を潤したわけです。すべての赤字を解消した。だから、あらゆる就業規則を破っても何も言われなかった。俺だけテレビに出たり、俺だけ新聞のインタビュー受けたり、俺だけラジオでしゃべったり、俺だけ他社から本を出したりとかしてても、まったく怒られない。タイムカードなんか押したことないよ。

——タイムカード(笑)。

【ターザン】人事部が適当な新入社員を送ってきても、ぜんぶ拒否。だってプロレス知らないんだもん。プロレスを愛する人間しか編集部に入れなかった。編集長の権限で。

——まさに独裁ですね。

【ターザン】そうすることで編集部に団結力がうまれるんですよ。ふつうの学生が入ってきたってダメです。早稲田とか慶應の学生が入ってくると、朝9時に来て夜6時に帰ろうとするわけですよ。

編集者がオフィスでブレインストーミング
写真=iStock.com/SetsukoN
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編集部員はプロレスが恋人だった

——当時はともかく、現代では当然の権利ですが……。それと早稲田とか慶應とかいうのも偏見だと思います(笑)。

【ターザン】うちには休みはないよ、と。有休もないよ、と。だいたい徹夜作業だよ、と。それでいいという人間しか入れなかった。今そんなことやったらブラック編集部だよね。でも、彼らはプロレスが大好きだったから。プロレスが恋人だったんです。だから、頼まなくたって勝手にやってた。文句のひとつも聞いたことありませんよ。

——編集長の考えに納得できない人がいたら、どうしていたんですか。いくらプロレス好きとは言え、編集部員たちにもそれぞれ考えがあるわけじゃないですか。

【ターザン】無視ですよ! 編集部員が何を考えていようが俺には関係ない、と。俺は、表紙を握る。巻頭記事を書く。エッセイも書く。インタビューもやる。編集後記も書く……ファンは俺の記事しか読んでないと思っていたから。

——なっ……なるほど。

「他の部員の原稿なんか読んだことない」

【ターザン】ただ、それぞれの編集者にも好きに書いてもらってましたよ。全日本担当、新日本担当、FMW担当、女子プロ担当。全員、好き勝手に書いてもらった。なぜなら、俺が認めている限り何を書いても大丈夫だから。ぜんぶ任せていましたよ。俺、編集部員の原稿なんか読んだことないよ。チェックしたことがない。

——だから同じ号でも微妙に矛盾するような話が載ったりしたわけですね(笑)。

【ターザン】見てるヒマがなかったんですよ。だって、ふつうの編集長って編集後記を書くくらいでしょ? あとは表紙をチョロっとやったりとかさ。その点、俺は部下の編集者の5倍くらい書いてたんだもん。重要なのは、俺の見方、俺の考え方、俺の原稿。それだけ。

——そのターザンさんの「主観」が受け入れられたからこそ、数十万部という部数が出ていたんでしょうけど……。