摘発に踏み切った意外なきっかけは…

税務署は、金銭が関係する仕事であり、贈収賄などの誘惑を受けやすいものです。そのため、監察という専門部署を設け、職員を日ごろから監視しているのです。監察は職員の素行調査などを行うこともあり、また全職員の素行データをも全把握する立場にありました。

つまり、この税理士は国税庁の内部事情、国税庁と検察庁との関係など、国税庁のトップシークレットを握っている人物でした。

そういう大物OBに対して、税務署は手出しをすることができないのです。だからどんな大胆な脱税をしていても、発覚することはまずなかったのです。

そういう大物の国税OB税理士がなぜ捕まったのかというと、国税側にやむにやまれぬ事情があったからなのです。

この税理士は、大手芸能プロダクションが脱税して査察に踏み込まれたとき、顧問税理士になったのです。普通の査察事件ならば、この税理士の威光で、査察の調査も鈍ったかもしれません。しかし、大手芸能プロの事件です。マスコミが連日、周辺を嗅ぎまわるので、査察としても手心を加えるわけにはいかなくなったのです。それどころか、マスコミはこの税理士のことも調べ始めました。

そこに危機感を抱いた国税当局は、マスコミにすっぱ抜かれる前に、自らの手で脱税摘発に踏み切ったのです。つまりは、この税理士が大手芸能プロの事件に関与しなければ、今でも逮捕されていない可能性が高いのです。

大企業と国税の構造的な癒着

大物OBと国税との癒着は、構造的なものです。というのも、少し前まで国税は大っぴらに幹部職員の退職後の顧問あっせんを行っていたくらいなのです。

これは、税務署が管内の企業に働きかけて「今度、うちの署長が辞めるのだけれど、顧問として雇ってくれないか」と打診するというものです。その打診を受け入れる企業は、当然のことながら、税務署に手心を加えてもらおうと思っているはずです。

また税務署の方も、税務署長を雇ってくれた企業に、そうそう厳しいことも言えません。自分たちもゆくゆくお世話になるかもしれないからです。

こういう「あっせん」を国税は長い間、堂々とやっていたのです。国税と企業の癒着もいいところです。信じられないことかもしれませんが、これは事実です。