一方ロシア側は、キーウとチェルニヒウにおける軍事活動を縮小すると約束した。キーウの150キロ北東に位置するチェルニヒウはウクライナ軍の北部作戦司令部がある軍事都市で、ロシア軍が激しい攻撃を続けてきた。地元の自治体職員によると、人口30万人の半分以上が既に避難したという。

それでもロシア軍はこの小さな都市を制圧できず、キーウ周辺に大部隊を展開させながらも、この大都市の中心部に進軍もできていない。東部ではウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)もロシア軍の猛攻に耐え続け、南部に位置する第4の都市オデッサも陥落をまぬがれている。その他スムイ、ドニプロ、サボリージャ、ミコライウなどの主要都市もウクライナ側が死守していて、ロシア軍の凄まじい無差別攻撃で廃墟と化したマリウポリもかろうじて持ちこたえている。

「ロシア軍は部隊を再編し、再補給を試みているが、ウクライナ軍は効果的な反撃を試み、ロシア軍を押し返している」と、キーウの北と東、さらに南部の戦況についてDIAの高官は言う。ロシア軍は唯一制圧した南部の都市ヘルソン近郊の空軍基地を拠点にし、南部全域への攻撃を強化する作戦を進めていたが、ここでもウクライナ軍の攻撃で将官が次々に死亡するなど、ロシア軍は作戦変更を余儀なくされた。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は29日、国民に向けた演説でキーウ近郊のイルピンを奪還したと発表し、慎重ながらも楽観的な見通しを語った。「今はバランスの取れた賢明な視点で状況を見守る必要がある。戦果が上がっても過剰に興奮せず……戦い続けなければならない……今こそ冷静さが求められる。過大な期待は禁物だ」

「歩み寄り」はポーズか

ロシアの交渉団を率いるウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官はイスタンブールで交渉を終えた後、ウクライナが「十分に練り上げた明確なプラン」を提示したことに安堵したと語った。ウクライナ側の提案は「精査した上で、国の指導部に報告する」という。

「彼らの提案に対する、われわれの提案も示すつもりだ」と、メジンスキーはその後にロシアの国営メディアRTに述べている。

メジンスキーはまた、ロシアはウクライナ北部での軍事作戦で、ウクライナ側に「大きく2歩」歩み寄ったと語り、ゼレンスキーとプーチンの首脳会談を計画よりも早期に準備する考えも明らかにした。

さらに、ウクライナとの合意にはロシアが併合したクリミアと「ドネツクとルガンスクという親ロ派地域」の処遇は含まれず、これらの地域については2国間の「交渉を通じて、外交的に」解決を探ることになる、とも述べた。

メジンスキーは、北部における作戦縮小で、ロシアが「ウクライナに歩み寄った」ことを認めつつも、「これは停戦ではない」と釘を刺し、合意に至るには「まだ長い道のりがある」と述べて楽観論を封じ込めた。