DIAの高官は、別の見方をする。「プーチンはこれで、『ウクライナの非武装化と非ナチ化』という当初の大言壮語をなかったことにして、(ドンバスの解放という)今回の戦争を始めたそもそもの目的を達成したと、勝利宣言することができる。このように限定的な目標に重点を置くやり方は、ウクライナの政権交代を断念したことを目立たせず、またウクライナの占領を『西側諸国による作り話』だと主張するための策略なのかもしれない」

ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は3月29日に会見を行い、特別軍事作戦の最大の目的は常にドンバスの「解放」だったとして、「作戦の第一段階の主な任務は完了した」と述べた。さらに彼は、「ウクライナ軍の戦闘能力は大幅に低下した」と述べ、ウクライナの「非武装化」という目的も達成したかのような言い方をした。

だがブリンケンは、「彼らがウクライナの東部や南部『だけ』に集中する」というのは「ごまかし」で、ロシアが戦略転換したという話は信じられないと主張した。「事態が前進している証拠も、ロシアが真剣であることを示す兆候もみられないからだ」

双方が勝利宣言できる

アメリカ同様、イギリスも現在の停戦協議については懐疑的な見方をしている。イギリスのリズ・トラス外相は「停戦協議の中で、ウクライナがロシアに売られることがあってはならないし、プーチンが侵略によって利益を得ることがあってはならない」と、述べた。「ロシアとの今後のいかなる交渉も、ウクライナを売り渡したり、過去の過ちを繰り返したりする結果にならないようにしなければならない」

では全てを手にするか、全てを失うかのどちらかしかないのだろうか。DIAの高官は、「誰が今回の惨事の責任を問われるのかをめぐって、モスクワでは既に深刻な内紛が起きている」と述べ、ロシアの指導部は戦争の終結を視野に入れていると示唆した。「一連の誤算のおかげでプーチンの立場は弱くなっており、ロシア経済は大きな打撃を受けている。全ては一変し、決して元通りになることはないだろう。だが現在進行中の戦争の終結に関して言えば、あらゆる兆候が、事態が正しい方向に進んでいることを示している」

またこの高官は、プーチンが勝利を宣言することができるのと同様に、ゼレンスキーとウクライナも勝利を宣言することができると指摘した。ロシア軍を撃退し、独立国家としての揺るぎない自覚を確立した。そして大国に立ち向かう小国の手本を示したのだから。