一方、バイデン大統領は29日にホワイトハウスで行われた記者会見で、ロシア軍の作戦縮小については、その裏にどんな意図があるのか、今後の動きを慎重に見守る必要があると述べた。

「今はまだ何とも言えない。彼らがどんな行動を取るか見極めるまでは判断を差し控える」

ブリンケン国務長官も、ロシアは「またもや人々の目を逸らし、欺こうとしている」ようだと疑念を露わにした。キーウ攻略の手を緩める代わりに、南部の制圧に兵力を集中させ、その後に再び首都を目指す可能性がある、というのだ。

2月24日の侵攻開始以来、ロシア軍の苦戦ぶりとウクライナ軍の強固な抵抗は、軍事と情報の専門家を驚かせてきた。

トッド・ウォルターズ米欧州軍司令官は29日、米上院軍事委員会の公聴会で、ロシアの意図を読み損ね、ロシア軍の能力を過大評価していたことは、嘆かわしい「情報ギャップ」であり、徹底的な検証が必要だと述べた。

ウォルターズによれば、ロシア軍は物量ではウクライナ軍より圧倒的に有利で、しかも既に兵力の70~75%をウクライナに投入しているにもかかわらず大苦戦しており、もはや余力はほとんど残っていない。精密誘導弾は既に弾切れとなり、無誘導爆弾を連発するありさま。本国から続々と補給部隊が送り込まれているが、最新型の戦車やその他の兵器をウクライナに投入することを、ロシアはためらっているという。

極超音速巡航ミサイルの使用については一部にエスカレーションとの見方もあったが、ウォルターズは、ウクライナを実験場にした新たな兵器の「能力を誇示」だったとの見方を示した。「実験が成功だったとは思わない」

またウクライナ軍部隊は「きわめて学習が速く」、ロシア軍を撃退することもできるかもしれないと「楽観的」に考えるようになっている、とも語った。

ウクライナ軍参謀本部は2週間前から、ロシア軍の各部隊が「大都市を制圧する」という目標を断念しつつあると指摘してきたが、ウォルターズも「まさにその通りのことを目撃している」と述べた。

ベラルーシ軍部隊が帰還

アメリカの有識者たちは、ロシア側の消耗や破たんを示す兆候はほかにもあると指摘する。米空軍の元高官で、現在は防衛関連の事業を請け負う人物は、「ロシアの多くの兵士は食料、燃料から士気まで使い果たし、ロシア軍はそれを戦闘能力のある集団と入れ替えることができていない」と本誌に語った。

ロシア軍は疲弊した地上部隊を温存するため、「非誘導型の」無差別爆弾や長距離ミサイルを多用した。迫撃砲や多連装ロケット砲の発射頻度を間引きさえした、と指摘する。「弾薬を節約するためだ」と、元高官は言う。

ベラルーシ軍の複数の部隊が本拠地に帰還したことが確認されたという事実も、ロシアの戦略転換を伺わせるものだ。前述のDIAの高官は、「ウクライナ当局は何週間も前から、ベラルーシの参戦を警戒してきたが、今ではその可能性は低いように思える」と語った。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2月24日にウクライナでの「特別軍事作戦」の実施を発表した際、その目的について、ロシアとの国境沿いにあるウクライナ東部のドンバス地方に多く暮らしている、ロシア系住民を守ることだと説明していた。彼はまた、同作戦は「ウクライナの非武装化と非ナチ化のため」だとも述べていた。

「この作戦の目的は、8年間にわたってウクライナの政権に虐げられ、ジェノサイド(集団虐殺)に遭ってきた人々を保護することだ」とプーチンは主張した。

侵攻当初、ウクライナ全土にわたるより広い領土の制圧を目指すかに見えたロシア軍は、ドンバス地方での支配を確固たるものにすることに重点をシフトさせてきた。西側の複数の有識者はその狙いは、ウクライナを朝鮮半島のように恒久的に分断支配することではないかと推測する。