たとえば、自動車業界では「電動化」と「自動運転」がホットイシューになっていますが、「電気で走るから静かですよ、エコですよ」「ハンドルから手を離しても走るんですよ」というだけでは、ものづくりの発想から抜け出ていないのです。
運転から解放されたら、自動車はただの移動手段ではなくなります。電動化して運転する必要がなくなった自動車は何に使えるのか、そこでどんなサービスができるのか。ハードとITが融合した先にあるビジネスモデルを考えることが重要なのです。フィンテックで金融と技術を融合させるとか、フードテックで食料と技術を融合させるとか、言葉だけはいろいろと出てきますが、それで何ができるのか、何をしたいのかが重要です。
高度経済成長は通商産業省のおかげだという“神話”
僕がソニーの社長をしていた頃からまったく変わっていなくて、一歩も進歩していないなと感じることがあります。「官僚支配」と「縦割り行政」です。
高度経済成長があったのは通商産業省の指導のおかげであると過大評価する“神話”が生まれ、日本の民間企業は官僚にひれ伏して指導を仰ぐという構図ができました。それは今もまったく変わっていません。
2021年4月17日、菅首相(当時)は日米首脳会談の後、米製薬メーカー「ファイザー」のCEOと電話会談し、「日本へのワクチン供給の追加をお願いしたい」と、一国の首相が民間企業の経営者に頭を下げる一幕がありました。
普通なら厚生労働省がやる仕事で、非常時には日本の首相の価値もここまで下がるのだなと思いましたが、菅首相が頭を下げざるをえなくなったのは、自国でコロナワクチンが開発できないためです。
日本でコロナワクチンが開発されない根本原因
大手製薬メーカーが多数ある日本でなぜワクチンが開発できないのか。さまざまな理由が挙げられています。
たとえば、過去のワクチンによる健康被害に対し、国側がことごとく敗訴したため、国も製薬メーカーもワクチン開発に対して及び腰になってしまったとされています。
確かにそれもあるかもしれませんが、僕はもっと根本的な問題がここには横たわっていると思っています。それは、日本の会社のあり方、社会のあり方、ひいては働き方に深く関係してきます。
官僚によって民間企業がコントロールされるようになったことが、諸悪の根源だと僕は思っています。薬を認可する厚労省が、製薬会社を支配下に置き、コントロールしてきたことで、今の事態を招いたのです。