地方住宅メーカーが胸スポンサーに就任した効果

【小山】なるほど、いずれにしてもやはり「認知」からなんですね。認知向上という点では、地域密着のサッカークラブのメディアとしての有効性を示す事例として面白い体験をしました。

少しブランド論から離れて広告効果の話になってしまいますが、J3藤枝を経営していた時代、ユニフォームの胸部分に広告掲示するスポンサーになってくださった住宅メーカーがありました。結果的にそのメーカーは胸広告により、大変なスポンサー効果を得たのですが、その大きな理由は藤枝市役所にJ3藤枝のユニフォームが掲示されたからです。市役所での露出により認知が高まり、公務員のお客さんがとても増えたと。

地方の住宅メーカーにとって、地域の公務員の方々は上客らしいんですね。なぜなら地方自治体とは地域における最優良企業の一つで、そこの正規雇用職員はやはり見逃せない顧客層だからです。公務員同士でご結婚されているダブルインカムのご家庭も多く、また大手企業の支社勤務と違って定住することがほぼ確実。メーカーは経済的に住宅を安心して売れる、買い手は居住条件として安心してその土地に買えると、理由が揃っているんですね。

そのため彼らにリーチする方法の一つとして、その住宅メーカーは藤枝のスポンサーになった。藤枝のユニフォームはそれ以前から市役所に掲示されていたので、そこに目を付けてもらったのだと思います。

結果的に公務員の方々は勤務先である市役所で毎日我々のユニフォームを通じて、その企業の名前を見ることになりました。また、地元のサッカークラブを応援するために、少なくない資金を援助しているんだから、このメーカーは安心できるという信頼もユーザー間には醸成されたそうです。確かに地方自治体で働く方にとって、地元のスポーツクラブへの貢献は企業イメージを形作る重要なベンチマーク指標になるでしょう。

写真=iStock.com/urfinguss
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消費者の「安心できる会社」という連想

【小山】結局、そのメーカーさんはスポンサーをしていた3年ほどの間に、売り上げを倍増させたのですが、もう藤枝周辺エリアの潜在顧客は開拓し尽くしたということで、今度は別の地域を重点的に開発することになりました。その結果、「ありがとう小山くん、いつかあっちの新規開拓エリアにクラブを作ることがあったら、また絶対協力するから!」と言い残しスポンサーをやめてしまいました(苦笑)。

そんな嬉しさ半分、悲しさ半分のエピソードでもあるのですが、認知ということでは地域密着クラブが果たせる可能性の高さを感じる事例でした。

【阿久津】これはすごくわかりやすい例で、ブランドエクイティの概念を考えた際には「認知」がまず初めに来て、次に「連想」があるんです。この例のように、「サッカーチームのスポンサーをするほど資金力があるなら安定した会社なんだ」など、消費者は色々なことを自ら推論しながら、その会社について連想を広げるわけですが、この「連想」こそが「認知」の次にくるブランド価値の源泉というわけです。

もちろん、「あの会社は信用できない会社だ」といったマイナスの連想もあるので、連想なら何でもブランド価値の向上をもたらすわけではありません。そこで知っておきたいのは、どんな連想がブランドの価値を向上してくれるのかだと思います。

【小山】はい。