スポーツチームの「スポンサー」にはどれほどの広告効果があるのか。静岡県のサッカーJ3・藤枝MYFCの場合、地元の住宅メーカーが「胸スポンサー」となったことで、3年で売り上げを倍増させたという。藤枝MYFCの創設者の小山淳さんと一橋大学大学院の阿久津聡教授の対談をお届けしよう――。

※本稿は、小山淳、阿久津聡ほか『弱くても稼げます』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

展示されているサッカーTシャツ
写真=iStock.com/BalkansCat
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サッカークラブのスポンサーになる企業の意義

【小山】サッカークラブをスポンサーする際にはどういった価値観の反映になるのでしょうか。

【阿久津】サッカーというスポーツは、みんなが見たりやったりして楽しんでいるわけですよね。すなわち、多くの人に魅力的な「経験価値」を提供してくれるものです。それを支援する動機というのは、単純にサッカーが好きだからに始まって、サッカーを守りたいからとか、それをやっている誰かを応援したいからとか、様々でしょう。

一方で、支援の動機にはそれほどかかわらず、サッカーを支援することによって得られるメリットとしては、スポンサー名の露出機会の増加に伴う認知の向上のほか、魅力的な経験価値を提供するサッカーが持つ連想があります。例えば、楽しさや感動、一体感や共感といったものとスポンサーが、何らかの連想の連鎖でつながることがあるわけです。

また、応援の動機によっては、スポンサー側が積極的に発信することによって受けることが可能になるメリットもあります。例えば、スポンサーの会社が掲げている理念など、抽象的で目に見えない漠然としたものが実際には何を意味しているのか、それが実際のスポンサー活動を通してわかりやすい形で具現化され、可視化される効果もあります。

その場合、「人々の生活文化を潤い豊かなものにする」といったような会社の理念を具体的に実践することによって、社内の士気を高めたり、会社の好感度を上げたりしようという動機があって、その一環としてサッカークラブのスポンサーになるわけで、スポンサー側はその動機を明確に発信していくことになりますね。

【小山】ということは、例えば我々のクラブなどのスポンサーになってくださる企業さんは、ブランディングをしているのであり、一つの価値観の表明でもあるのでしょうか。

スポンサーになるのに受け入れられやすい物語

【阿久津】そうですね。ただ、かつて日本では「計算高い」印象を与えてしまうことなどを考慮して、あまりブランドというものを前面に出すことを好まない企業も少なくなかったんですよね。そうした企業は見返りなんて期待していないというスタンスを示すことも多く、「スポンサーにはこういうメリットがある」という話は、なかなか公な話として伝わってこないんですよ。

一方で、サッカーがさして好きでもないし興味もあまりないけど、会社の認知や好感度を上げるのに比較的メリットがありそうだからサッカークラブのスポンサーになってみる企業も、そこそこあったように思います。特に景気がよかった時、ちょっと古いですけど例えばバブルの時、そんな企業が多かったような気がします。

とはいえ、人々はやはり物語の整合性を考えますから、サッカーなどのスポーツの価値に共感するから、アイデンティティのある地元のクラブを応援したいから、といった理由でスポンサーをするほうが、受け入れられやすいだろうと思います。そこには、スポンサーをしている動機に対しての共感もあるからです。