「勝ちたい」という気持ちは同じでも…

もうひとつ大きな変化だと感じたのは、全体的な視点で状況を考えられるようになり、目の前の試合に必要以上に力が入らなくなったことだ。

鳥海連志『異なれ 東京パラリンピック車いすバスケ銀メダリストの限界を超える思考』(ワニブックス)

今回の東京パラのイギリス戦は、メダルがかかった「ファイナル4で1勝する」という目標を掲げた僕らにとって最も大事な試合だった。直接聞いたわけではないので確かではないが、おそらく大半の選手が「絶対勝つぞ」とか「やってやるぞ!」と意気込んでいただろう。

その中で僕は意気込んではいなかった。「準決勝に残ったアメリカ、イギリス、スペインだと、日本代表の戦略的にイギリスとの相性が一番よさそうだ」と考えていた。

「勝ちたい」という気持ちは同じでも、現実的な将来を見通した捉え方だと自分では思っている。

俯瞰の能力はスポーツに限らず、皆さんの生活の中でも広く役立つものだと思う。僕は、一日の思考の流れや、自分がこだわる物事をノートに書き出すことで徐々にこれを身につけていった。もしよかったら試してほしい。

「もうひとりの自分がいる」という感覚を持つ

俯瞰のイメージと関連するところがあるのかもしれないが、自己分析の結果の中に「二面性がある」というものもあった。二面性というと少しネガティブな印象があるかもしれないので、「ふたりの自分がいる」と言い換えることにしよう。

車いすバスケに出会って以来、僕は自分の中に両極端な自分が同居しているように感じることがよくある。

あるときは、自分に全然期待していない自分と、自信満々で調子に乗っている自分。
あるときは、空気を読む自分と、あえてそれを壊そうとする自分。
またあるときは、人のために尽くそうとする自分と、自己中心的な自分。

3つ目の「ふたり」を感じたのは、東京パラに向かうにあたって最大の壁となった出来事の最中だった。

前にも少し触れたように、僕は時間を守ることが大の苦手だ。小さい頃からとにかくマイペースで、学生時代は毎朝母に急かされ怒られていても、しょっちゅう遅刻を繰り返していた。

日本代表の活動においてもそれは改善せず、東京パラに向かう合宿中、とうとう仲間たちも我慢できないレベルにまで達してしまった。

いろんな人に迷惑をかけ、不信感を与えてしまったことを大いに反省した僕は、プレー以外でのチームへの貢献度を高めるよう行動した。プレーでもこれまで以上の熱量で取り組み、失った信頼を取り戻すよう心がけた。