給与が激減する2つの理由

若いときに会社に貯金し、年を取ってから受け取る積み立て年金方式と同じであり、経済学者はこれを会社が無理矢理貯金させる「強制貯蓄」と呼んでいる。したがって途中で会社を辞めると不利になるため、会社にとっては離職防止による囲い込みのメリットだけではなく、解雇されないように仕事もがんばるというメリットを享受できる。

冒頭に述べた希望退職者募集は定年前に辞めてもらう仕組みだが、当然、強制貯蓄分を返さないといけない。それが特別加算金であり、退職金と合わせて支払うことで定年までの帳尻を合わせる行為だと説明される。

50代の人の生産性にプラスして支払われている強制貯蓄分の金額は一説に300万円と言われる。年収1000万円なら生産性に見合う給与は実質700万円ということになる。これが再就職しても確実に給与が下がるという根拠の一つだ。

もう1つの理由は再就職先の問題だ。とくに大企業出身のシニアはよほどの能力がある人でなければ同じ大企業に再就職するのが難しく、圧倒的大多数が中小企業に就職すると言われる。

再就職先を見つけるのに相当苦労している

300人未満の中小企業の50~54歳の中途採用者の平均月給は約30万円だ(厚生労働省労働市場センター「中途採用者採用時賃金情報」)。仮に月給の4カ月分のボーナスがもらえるとしても480万円。年収1000万円の人はまさに半額以下になるということだ。

しかも運良く見つかった場合の話だ。実際のシニアは再就職先を見つけるのに相当苦労しているのが実態だ。

実例を紹介しよう。大手広告代理店のマーケティング職のAさんは53歳のとき、退職金6000万円を提示され、悩み抜いた末に希望退職者募集に応募した。当初は退職勧奨を受けたショックもあり、会社が契約した再就職支援会社を通じて就職活動を本格化したのは2カ月後だった。最初は同業や消費財メーカーの中途採用に応募するが連戦連敗。8カ月後、ようやく車載用部品を製造・販売する中小企業からオファーを受けたが、自分の希望とはかけ離れていたと言う。