中国と米国に抜かれたロシアの行き詰まり
恫喝が奏功するには、「ロシアなしに世界の宇宙開発は成り立たない」という圧倒的な影響力をロシアが持っていることが必要だ。しかし、今はそうなっていない。
中国が膨大な国家予算を投じて着々と宇宙開発の力を蓄え、米スペースXなどの宇宙ベンチャーが次々と登場し、活躍する。
現場の調整は大変だろうが、ロシア以外のロケットに切り替える選択肢がある。ISSでの任務をロシアが放棄するなら、他国の技術を使うことも可能だ。米企業が購入してきたロシア製エンジンも、開発中の米国製のものに置き換える計画が進んでいる。
つまり「ロシアがいなくなると、宇宙開発が止まってしまう」ような状況ではない。かつてロシアは米国と宇宙覇権を争ったが、今は中国と米国が争う。ロシアの存在感は薄くなっている。
宇宙開発の力を示す指標のひとつに年間のロケット打ち上げ回数がある。2021年の1位は中国、2位は米国、3位はロシアとなっている。だが、中国、米国ともに、ロシアの倍以上を打ち上げている。3位のロシアとの差は大きい。
イーロン・マスク氏の活躍も苦々しい
打ち上げた衛星の利用でも、米国の民間企業が活躍する。スペースXは、多数の小型通信衛星を使ったインターネット接続サービス「スターリンク」事業を進めている。
ロシアの侵攻でネット接続が遮断されたウクライナの副大統領が、スペースXのイーロン・マスク氏にツイッターで助けを求めると、マスク氏はすぐにネット回線を使えるようにし、スターリンク用の通信機器もウクライナへ送った。専門家から「通信時に位置を割り出され、攻撃目標にされる恐れがある」と指摘されると、マスク氏も利用時の注意を呼びかけた。ロシアは一連の動きを苦々しく思っていることだろう。
ロシアが欧州の衛星を打ち上げ拒否したことも、スペースXのロケットを目立たせることになった。ロシアのロケットの代わりに使用が検討されているからだ。ロシアが邪魔をすればするほど、米国の企業の価値が高まる、という皮肉な結果を生んでいる。
実はロシアも自分たちの遅れを認識している。2019年にプーチン大統領は演説で、ロシアの宇宙開発について「衛星通信システムなどは、品質、信頼性などで競合相手より劣る」「機器や電子部品の大部分をグレードアップする必要がある」などと指摘した。
そうしたことから今回のロシアの恫喝の意図が透けて見えてくる。
技術力でも、資金力でも、もはや欧米や中国にかなわない。存在感はどんどん薄くなる。ならば恫喝で世界を攪乱し、自らの存在感をアピールし、重要な国だと思わせよう——。これまでもロシアは宇宙の国際交渉で、事あるごとにこういう「正攻法」ではないやり方をしてきた。