ロケットがないアメリカにやりたい放題だったが…
ロシアの宇宙開発の力が落ちたのは、1991年のソ連崩壊後だ。予算が激減し、新たな技術開発ができず、技術者や技術が海外へ流出した。
米国は安全保障上の懸念から、米欧日などの西側諸国で進めていた宇宙ステーションに、ロシアを参加させ流出を抑えようとした。ロシアもそれを受け入れた。
だが、ロシア国内に残った技術者の士気は薄れ、質も劣化していく。2000年代のロシアで、ロケットや衛星の単純なミスや技術不備による失敗が続いたのも、そうしたことが影響したと見られている。
そんな中、思わぬ「敵失」がロシアの窮地を救う。2003年に米スペースシャトルの空中分解事故が起き、乗っていた宇宙飛行士全員が亡くなった。米国は11年にシャトルを退役させることになる。
シャトルがなくなると、ISSへ人を運ぶ手段はロシアのロケットと宇宙船だけだ。ロシアの影響力は俄然大きくなる。米国の足元を見透かして、飛行士をISSまで運ぶ「座席料金」を引き上げるなど、やりたい放題だった。
だが、2020年に再び状況が変わる。米スペースX社が宇宙船で人を宇宙へ運ぶことに成功し、米国は独自の輸送手段を獲得した。ロシアのロケットと宇宙船も引き続き使われてはいるが、以後、宇宙でのロシアの力は再び弱まっていく。
「純国産ロケットと自前の宇宙基地」という幻想
プーチン大統領は、ロシアの宇宙開発がここまで弱体化したのは、国が崩壊しばらばらになったためだと考えるだろう。
現在のロシアの宇宙施設やロケットは、旧ソ連圏の国々や欧州などとの微妙な力関係の上に成り立っている。バイコヌール宇宙基地は、カザフスタンにあり、ロシアはカザフスタンに借料を払わねばならない。
ロシアのロケットは、ウクライナ製の部品やシステムなどの外国技術に依存したり、他国との合弁事業だったりするなど、ロシアだけでは自由にできない状況が長く続いてきた。
ロシア製部品への切り替えなどの対策を講じてきたが、旧ソ連圏をロシア中心でまとめ直そうとしているプーチン大統領にとって、ロシアの技術だけの純国産ロケットを作り、ロシアが自由に使える宇宙基地から打ち上げることが悲願になっている。
このため、新ロケット「アンガラ」の開発や、新たな宇宙基地の建設を進めたが、どちらもまだ本格的な活用までは至っていない。新基地建設をめぐっては大規模汚職が問題になるなど、負の側面も目立った。