雇用流動性の低い国では長期雇用がベスト

1993年にOECD(経済協力開発機構)が行った労働市場の調査では、アメリカやイギリスでは流動的な労働市場が成立している一方、ドイツやフランスは企業定着率の高い長期雇用慣行が形成されていることがわかっている。

流動性の高い労働市場が成立している国では、「リストラ」は文字通りの「リストラクチャリング(事業の再構築)」として、個人、会社、マーケットの最適化・活性化に寄与する。

ところが、流動性の低い労働市場の国では「リストラ」とはすなわち「首切り」以外の何物でもなく、雇用不安や消費者の購買力の低下を招くだけであって、そこから社会を活性化するような新たなムーブメントが生まれることはほぼ期待できない。

日本のように流動性の低い国では、明らかに長期雇用慣行を維持することが適しており、それが世界の趨勢なのだ。

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産業構造が変化し、競争相手も増え、バブルも弾け、日本企業は窮地に追い込まれ、経営能力が試される時代に突入した。そこにコロナ禍が襲った。しかし、怠慢な経営のツケを払わされているのが現場の会社員だけとは、あまりに酷い仕打ちではないか。

「働かないおじさん」問題は本当か

働く側はずっと譲歩し続けてきた。ずっとずっと譲歩し続けてきた。ある程度は、仕方ない部分もあったかもしれない。しかし、本来「働く」という行為は、人の尊厳を守るためのものだ。人は生きるため、幸せになるために働いている。働くことは人生を豊かにする最良の手段だ。なのに、今の働き方に尊厳はあるだろうか。

「海外に比べ、日本の中高年は給料をもらいすぎだ」と批判されたり、一部の50代社員の代名詞に「働かないおじさん」という切ないフレーズが多用されたりするが、これは幻想にすぎない。

アメリカ以外の先進国、すなわち欧州も日本同様、勤続年数で賃金が上がるし、長期雇用も決して珍しいことではない。中でも「日本型雇用に近い」とされるドイツでは、勤続年数10~20年までの賃金上昇率は高い。「勤続1~5年」と「勤続30年以上」の比較も、日本の1.8倍に対し、ドイツは1.7倍とさほど変わらないのだ(労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2019」)。

それだけではない。1997~2019年までの22年間の男性大卒者の賃金変化率を見ると、25~29歳は2.2%上昇しているのに対し、55~59歳は11.3%も下降している。他の年齢層も同様に、35~39歳6.9%、45~49歳9.6%と、軒並み減っているのだ(日本労働組合総連合会「連合・賃金レポート2020」)。