子どもが将来なりたいものの1位は「会社員」!?
2021年3月、「大人になったらなりたいもの」ランキングで、「会社員」が男子の部で堂々のトップという目を疑うような調査結果が報じられた。さらに今年3月に発表された新規調査でも同じ結果となり、一過性のものではないことが明らかになった(第一生命保険「第32回 大人になったらなりたいもの調査」「第33回 大人になったらなりたいもの調査」)。
「会社員」を夢見る子どもは、男子の部では小学生から高校生のすべての部門で多く、その他の職業を抑えてトップだった。とくに高校生の部では、第2位の「公務員」をダブルスコア近く引き離していた。女子の部でも「会社員」は人気で、小学生でこそ第4位とふるわなかったものの、中学、高校生では断トツの1位だ。
この結果を微笑ましく受け止めた人もいたかもしれないが、私には異常事態にしか思えなかった。
子どもたちは「自宅で仕事をしているパパ(ママ)みたいになりたい!」と、リモート勤務する会社員の姿を無邪気に夢見たのかもしれない。だが、子ども社会は大人社会の縮図であり、この結果は、暗に「会社員という身分を得さえすれば大丈夫」と考える、パラダイム・シフトできていない大人の多さを反映したものにすぎない。
シニア社員を“粗大ゴミ扱い”するな
そんなお人好しだから、会社員はどこまでも会社から譲歩を迫られ、挙げ句の果てには定年を迎えるにあたって、会社側から「定年延長をしたのにシニア社員が会社の期待に応えない。定年延長は失敗だった……」などと“粗大ゴミ扱い”されてしまうことになるのだ。
「定年延長やめときゃよかった」というセリフは、ある企業の役員から私が直接聞いたものだ。
定年延長を選んだ社員の側が嘆くならわかる。しかし、社員を「人」として見ず、まるで会社の部品のように扱ってきたことを棚に上げ、「ベテラン社員が期待を裏切った」と会社側が定年延長を嘆くとは合点がいかない。パラダイム・シフトできない社員の弱みに付け込んでいるとしか思えない。
そもそも、かつて上司が部下を育て、先輩が後輩を育てたのは「会社のために」というコミットメントが存在したからだ。社員の「会社への思い」を著しく減退させたのは、長期雇用(Lifetime Commitmentの筆者訳)や年功序列などの制度崩壊そのものではない。会社側の心理的契約の不履行にこそ原因がある。
会社の利益だけを考え、社員を単なる労働力として扱い、社員の生活を守るという経営者の責任を放棄してきた。その結果が現在である。なのに、「経営者」には、社員の信頼を破り続けてきたことがわからない。