かつては「国際社会では謙虚にする」が方針だったが…
——なるほど。国際社会に批判されても、自分たちに有利なポジションを築こうとする中国の姿勢は、180年以上かけて培われたのですね。
それでも十数年前までは「韜光養晦」という外交政策をとっていたので、国際社会と軋轢を生む場面は少なかった。1989年に民主化運動を弾圧した天安門事件で中国は、国際社会で孤立しました。
このとき最高指導者だった鄧小平が唱えた外交政策が「韜光養晦」です。「国際社会では謙虚にして、実利をとって力を蓄える」という意味です。以来、「韜光養晦」を継承してきたのですが、2008年を境に方針を転換した。力を蓄えたから、謙虚にする必要はないと大国として振る舞うようになった。
国際世論には期待しないという話と矛盾するようですが、大国になったゆえに中国は、国際的な批判をとても意識するようになりました。
中国共産党に不満を抱く国民はごく少数
たとえば、コロナ起源説。諸外国ではコロナは中国で発生し、世界中に広まったと考えられている。でも、中国では、新型コロナの発生源は中国ではないという説が、国内で受け入れられ、お上から下々の人民にいたるまで人気がある。
もしも本当に中国が起源だったとしても、各国が中国に損害賠償を請求したり、謝罪を求めたりするのは現実的ではありません。どの国で感染症が発生してもおかしくないのですから。にもかかわらず、中国は、自分たちが不利になるような指摘に対しては、ウソをついてでも頑なに認めようとしない。自分たちは大国になったんだから、諸外国よりも優位に立ちたいという意識の表れのようにも見えます。
昨年11月、中国共産党は、過去の思想や政治路線を振り返り、新たな方針を指し示すための「歴史決議」を採択しました。そのなかで、中国共産党がどんなにすばらしい政策を行ってきたかを延々とまとめている。
まず過去に外国勢力を打ち破り、人民に中国大陸を取り戻した。そしていまは、経済発展させて、国を豊かにし、人民にも幸福をもたらした……。そうやって中国共産党の正当性を示しているんです。
——当の中国国民はどう受け止めているんですか?
もちろん経済発展に取り残されて困っていたり、不満を募らせたりする人はいます。
ただ中国共産党は、経済発展に自信を深めている。格差はあるものの、世界2位に経済大国に成長し、人民の多くが豊かさを享受している。不満を抱く人はごく少数で、大半の人民が幸福に暮らしていると考えているからです。