脱炭素戦略の狂い①…脱原発と脱石炭の見直し

ロシア産の天然ガスに対するアクセスを見直すとなると、その他のエネルギーで発電をカバーする必要に迫られる。その選択肢の一つに原子力があるが、原子力発電の能力を増強させることは非常に困難だ。

現実的な手段は、廃炉予定の原発の延命を図ることだ。事実、今年中の脱原発を目指していたドイツも原発の廃炉延期を模索しているようだが、道のりは平たんではない。

2月末にドイツのショルツ首相は従来からエネルギー政策を転換すると発表、ルンスビュッテルとビルヘルムスハーフェンの2カ所にLNGターミナルを建設する計画を示すとともに、これまで脱原発を声高に主張してきた緑の党出身のハーベック経済・気候保護相が、現在稼働中だが廃炉予定の原発の運転延長を検討していると発表した。

しかし3月8日、ドイツ経済・気候保護省と環境省は連名で原発の運転延長を推奨しない(nicht zu empfehlen)という消極的な報告書を公表した。延長に費やすコストに比べると、得られるベネフィットが少ないという理由からだが、一方でこの「推奨しない」という表現は、稼働の延長の可能性に含みを持たせるものとも言える。

他方でハーベック経済・気候保護相は、2月末にエネルギー政策の転換を発表した際に石炭火力発電を存続させる可能性についても言及している。経済・気候保護省と環境省のスタンスはまだ分からないが、代替手段に乏しい中で当初の予定通りに石炭火力を削減していけば、ドイツの電力不足が深刻な事態になることは容易に想像できる。

同様に、スペインの出方にも注目が集まる。スペインのサンチェス政権は再エネ100%での発電を目指しており、2035年までの脱原発を目指している。しかしスペインは、風力発電の不調から昨年は厳しい電力価格の高騰に見舞われたばかり。国際エネルギー機関(IEA)からも原発の稼働延長を勧告されているのが実態だ。

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脱炭素戦略の狂い②…EV化の後ズレ

電源の脱炭素化スケジュールと同様、電気自動車(EV)シフトも後ズレするだろう。

EV用の半導体に不可欠なネオンの多くがウクライナで、また触媒に使われるパラジウムや蓄電池に使われるニッケルの多くがロシアで産出される以上、2035年までに内燃機関を搭載した新車の販売を終了するという欧州委員会の方針の実現には黄信号が灯る。

燃料電池車(FCV)や「水素エンジン」に期待するとしても、普及の加速には限界がある。むしろ欧州委員会は、当初の目標では内燃機関車に含めていたハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の普及も容認する方向に路線を修正するのではないだろうか。HVとPHVは、それこそ日系メーカーが得意とするところの車種だ。