お家芸の生産技術でも負け始めている

【井上】ロボット一つとっても、中国ではまったく発想がちがうんです。日本では、ロボットはあくまで熟練工の代替物。熟練工のノウハウをソフトウェア化して、同じことをロボットにやらせるという考え方です。一方、中国は熟練工以上の力を発揮するロボットを開発しようとしています。

【村沢】いずれ日本メーカーは生産受託すらできなくなるかもしれませんね。

【井上】私もそれを懸念しています。海外の製造業の現場では、生産技術の革新が進んでいるのに、日本メーカーはついていけていません。「モノづくりの日本」の強みが、いま急速に失われつつあると感じます。

【村沢】生産技術は日本の「最後の牙城」なんですがね。

【井上】おそらくテスラは素材の研究もやっているような気がします。材料工学は日本のお家芸だったのですが、近年その地位が揺らいでいます。

「若造に何ができる」という反応は老化のはじまり

【村沢】そういうピンチから脱するためには、とにかく成功体験を捨てて、世界から謙虚に学ぶべきだと思います。

【井上】あとは経営者の世代交代が必要だと思います。本社の経営トップは従来通りの人事でやるにしても、EVとか車のスマホ化を扱う戦略子会社のトップは30代を抜擢するとか、そうした人事が必要になるかと。

「若造に何ができるのか」という反応自体が、すでに老化のはじまりです。将来性のある若い世代に「DO」のチャンスを与えなければならないと思います。

事実、日本の自動車メーカーから若い人材が流出しています。彼らにとって、目先の給料よりも「権限を与えられて、成長できる環境」のほうが大事なんですよ。

村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)

【村沢】若い世代にはよりいっそう海外に出て行ってほしいですね。留学する学生が減っていますから。

【井上】永守会長は大学を作ったりもされていますが、もっと日本全体として、若い世代を応援するような動きが必要かもしれません。

ほか、頭脳労働者の雇用はもっと流動化したほうがいいと思います。新卒一括採用の生え抜きだけが社長になるという社会ではダメだと思います。もっといろんな組織へ転職して、また戻ってくるようなキャリアパスが普通になれば、変化が起こりやすくなると思います。

いまは産業革命期なんですが、「なくなる仕事を守ろう」とするばかりでなく、新しく生まれる仕事に目を向けなければならないと思います。

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