【井上】私はコロナの前によくシリコンバレーや中国の深センに取材に行っていたんですが、両方で「日本人はPDCAばかりやるからだからダメなんだ」と言われたものです。「俺たちはDから始める。DCAPだ」と。PDCAは、決められた仕事を「カイゼン」する際には効果的なのですが、EVのように新しい分野の開拓には向いていません。
日本メーカーがEVシフトに対応できないのは、そうした組織風土の問題が大きいんじゃないかとも思います。成功体験に安住しがちだし、新しいことをやって失敗するとマイナス評価になりますから。
江戸時代には長崎に「出島」がありました。鎖国によって禁止されていた貿易は、「出島」ではOKだったのです。日本企業は、今こそ「出島」を作って、そこでなら新しいことは何でもOKにすればいいと思います。
具体的には、EVは別会社でやったほうがいいでしょう。こういうことをやっていかないと、本当に「日本車敗北」となってしまうと思います。
いつまでも成功体験を引きずっている
【村沢】私は70年代後半から90年代まで10数年間アメリカに住んでいました。そのころ目にした、かつての日本企業には、世界から謙虚に学ぶ姿勢があったと思います。
ただ、ジャパンアズナンバーワンと言われるようになって、そういう姿勢を失ってしまった気がします。井上さんがおっしゃっていた「過剰品質」の問題も含めて、成功体験を引きずっているように見えます。
それは自動車以外の分野でも見られる現象です。20年ほど前には、日本のソーラーパネルは競争力を持っていました。その頃、メーカーに「生産数をいまの3倍にしたほうがいい」とアドバイスしたのですが、メーカーは「われわれは品質で勝負します」と言って受け入れなかった。その結果どうなったか。もはや、日本に競争力のあるソーラーパネルメーカーは1社もありません。
名経営者には「大ぼら」吹きが多い
【井上】関西には「やってみなはれ」文化があるんですけどね。
【村沢】日本電産にはまだそういう文化がある気がしますね。
【井上】永守会長の強烈なリーダーシップのたまものだと思います。
【村沢】イーロン・マスク氏にも、強烈なリーダーシップがあると思います。テスラは2030年にEVを2000万台販売する、としています。これは現時点では「大ぼら」のような非現実的な数字ですが、彼なら実現してしまうかもしれません。
【井上】「大ぼら」は悪いことじゃないんですよ。野望とか夢の類ですからね。ちなみに永守会長も「大ぼら」吹きです。2020年にインタビューした時に「車の価格は5分の1になる」と言っていました。それで、一部のモータージャーナリストから叩かれたわけですけど、彼の意見はかなりロジカルなものでした。