「秀吉タイプ」はいても「家康タイプ」がいない
【村沢】ソフトバンクの孫正義氏も「大ぼら」を吹きつつ、実行してしまう人ですね。一般人からすると、「不可能」に見えることでも、イーロン・マスク氏や孫正義氏には、実現への道筋が見えているんですよ。
ただ、家電にしても、自動車にしても、日本の製造業にはこういうタイプの経営者がいなくなってしまった。もし松下幸之助が生きていれば、パナソニックが電池事業で中韓勢に後れを取ることはなかったのではないかと思います。日本企業に足りないのは、そういう「先が見えているリーダー」でしょう。
【井上】信念をもって既成概念を打ち壊すことも大事なんですよね。こういうことを言うと精神論に聞こえるかもしれませんが。求められる経営者を戦国武将に例えると、変革の今の時代は織田信長のようなタイプが求められると思うんですよ。
「楽市楽座」という規制緩和と、「鉄砲」という新技術の導入、そして「比叡山焼き討ち」という「既得権益との戦い」を進めたのが信長です。
信長がやったことをベースに、巧みな交渉術によって天下を取ったのが豊臣秀吉です。このタイプはM&Aが得意なタイプの経営者と言えるでしょう。
あと、先行する2人の業績を引き継いで、200年続く統治体制を完成させたのが徳川家康。自分がいなくなっても永続する組織を作れる経営者ですね。
いまの日本にも、「秀吉タイプ」の経営者は結構いると思うんですよ。孫正義氏などは、信長と秀吉を足した感じがします。いま日本で面白い経営者はこのタイプが多いですね。でも、「家康タイプ」は後世に評価が定まりますが、孫氏も永守氏も後継者問題にぶち当たっていますから、「家康」になれるか否かは分かりません。
「ど素人にはできない」という冷笑的な態度
【村沢】あと、日本の経営者たちは、世界を見なくなっている気がしますね。昨年の大河ドラマの主人公、渋沢栄一の時代は、とにかく海外のものを取り入れていた。高度成長期の日本も、欧米の技術を盗みまくっていた。
82年に「IBM産業スパイ事件」がありました。スパイ行為はもちろん良くありませんが、それくらい貪欲に世界の動向を取り入れようとしていたのです。
いまそれをやっているのが中国・韓国です。「中国はパクリばかりだ」と言う人がいますが、それだけ貪欲に知識を吸収している証拠とも言えるわけです。いまの日本の経営者は、永守会長のような例外を除いて、こうした姿勢を失っているように思います。
【井上】内向きになっていますよね。
【村沢】テスラの電池製造についても、「ど素人にはできない」といった冷笑的な態度が目立ちますね。それも、実際にテスラが何をやっているかを知らないがゆえじゃないかと思うんです。
英語のニュースに接しているだけでも、大分違うと思うんですけどね。日本の経営者は日本語のニュースしか見ていないのではないでしょうか。
【井上】経営者だけではなく、大手メディアの人も、海外に行っていないですからね。中国で何が起きているのか、シリコンバレーで何が生まれているのか、直接には見ていないんですよ。