「軍配を上げると即座に陣形が変わる」のはゲームの世界だけ

また、一口に戦術と言いますが、たとえば諸葛孔明のような「軍師」が扇や軍配をパッと上げると、まるで野球の監督が指令を出すブロックサインのように、「鶴翼かくよくの陣」だとか「長蛇の陣」など、陣形を即座に変えるというものを想像する人もいるかと思います。

本郷和人『「合戦」の日本史 城攻め、奇襲、兵站、陣形のリアル』(中公新書ラクレ)

集団戦が主流となった戦国時代においては、このような「戦術」は、合戦のあり方を考えれば、単純に無理だとわかるでしょう。

というのも、前章で述べたように、平安時代末期から鎌倉時代にかけて、武士たちの戦い方というのは一騎討ちが基本でした。それはいずれも軍事のプロ同士の戦いです。自ずと兵の数も限られてきます。この国にこの人ありと呼ばれるような有力な武士であっても、せいぜい動員できる兵の数は300程度だった時代です。

そのような小規模のものでかつ全員が戦いのプロであれば、訓練次第で即座に陣形を変えることもあり得たかもしれません。

しかし、南北朝時代以降、合戦はたくさんの兵数を準備できたほうが勝利する集団戦へとかたちを変えていきます。その際、プロの武士だけでなく、普段は田畑を耕している農民が徴用されたわけです。つまり、戦いにおいてはアマチュアの人たちです。大人数でかつ、満足な訓練を受けているわけでもない軍隊が、急に陣形をあれこれと変えるような戦術を取れるかというと、普通に考えるならば、まず無理でしょう。

よくある戦略シミュレーションゲームならば、ボタンひとつで軍勢を動かし、すぐに陣形を変えたりもできるのでしょうけれども、やはりリアルな合戦ではまずあり得ないと考えるべきです。

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