第3のビールが出現した頃から、ビール類市場の減少が始まった

2003年には発泡酒はビールとほぼ同じ市場規模に成長するのですが、その傾向が良くないと考えた政府によってこの年、酒税法が改正されて発泡酒の価格が大幅に上がります。この年を境に発泡酒市場は縮小し、代わりに改正された酒税でも価格が安い第3のビールと呼ばれる新ジャンルに、安いビール類の主役が代わります。この第3のビールがまずかった。

実は日本人が本格的にお酒を飲まなくなるのは、この第3のビールが出現した2003年からです。ひとりあたりアルコール消費量は90年代前半を100とした場合にさらにがくんと90を切るように大幅に減り、そこから毎年のようにずるずるとビール類市場の減少が始まります。

要するに、新ジャンルはビールに口当たりは似ていますがビールよりも明確にまずい。物資が不足した戦時中にビール各社はサツマイモからビールが作れないかを研究したそうですが、やっていることは同じで安い代用品を現代の技術で再現しただけ。そしてまだ経済的に余裕のない若者が成人して居酒屋で最初に味わうのはこの「まずいビール」ですから、若者のビール離れはビール会社にその責任があるわけです。

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富裕層は「うまいビール」若者は「まずいビール」

さて皮肉な話ですがこの1990年代から日本中でもうひとつ、うまいビールブームが起きます。きっけかは漫画『美味しんぼ』のヒットです。美味しんぼの影響で、美食家から見て本当においしいのはビール純粋法の下で作られたドイツのビールであり、それと同じルールで作られているのは日本ではエビスビールしかないという新しい常識が誕生したのです。

それを受けてビール界では高いビールが誕生します。プレミアムモルツのヒットを皮切りにビール各社がプレミアムビール市場を作り上げます。時を同じくしてマイクロブリュワリーが認可されるようになり、地ビール市場もひろがりました。今ではクラフトビールなど高くておいしいビールが多種多様な形で手に入るようになりました。

それ自体はビール市場にとって良い動きだったのですが、1980年代のように老若男女平等に同じうまいビールを片手に居酒屋で「うぇい」とお酒を飲む時代とは異なり、高いビールを飲む所得階層が誕生しました。富裕層はおいしいビールを飲み、下流層の若者は高いビールが飲めない時代に突入したのです。