1杯1000円を超えるラーメンが増えている。なにがきっかけだったのか。50店以上のラーメン店のロゴを手がけたデザイナーの青木健さんは「ひとつのきっかけは『中華そば青葉』の『特製ラーメン』だろう。トッピングをするには全部入りの『特製』を選ぶしかないので、多くのお客が1000円を超えるラーメンを頼むようになった」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、青木健『教養としてのラーメン ジャンル、お店の系譜、進化、ビジネス 50の麺論』(光文社)の一部を再編集したものです。

「中華そば 青葉」中野本店
東京都中野区中野にある「中華そば青葉」中野本店。(写真=Kentin/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

業界の常識を変えた「全部入り」

中野の「中華そば青葉」は、ラーメン界に多大な影響を与えた店ですが、魚介豚骨スープ、魚介系と動物系を丼で合わせるWスープという手法(現在は丼に入れる前に合わせる)、つけ麺との2本柱スタンダードなど、味関係の指摘がほとんど。

しかし私が特筆したいのは「特製」です。今では常識になった、プチぜいたくメニューである「特製」は、味玉(味付玉子)に加え、チャーシューやメンマなどが増量。これをはじめに「特製」という名で定義したのが「青葉」なのです。

数多くの店が採用し一般化しましたが、元祖である「青葉」とは決定的に違います。他店の「特製」はトッピングをすべて入れた、いわゆる「全部入り」に近い形。しかし驚くべきことに、「青葉」には個別トッピングが存在しないのです……!

中華そばとつけ麺、それぞれの特製という4種類のみ(あとは各大盛)。そして「青葉」がメディアで紹介される際のメニューは、必ず味玉が載る「特製中華そば」。その味玉のビジュアルは衝撃的で、やわらかいため包丁ではなく、糸でギザギザに切った断面、そこからこぼれる黄身……誰もがあのとろとろ感に食指を動かされました。ところが味玉のみのトッピングはメニューにはない。必然的に特製を注文することになる。

たった数百円の違いといえど、1日の客全員が味玉ではなく特製を頼むとなれば、売り上げはまったく変わってきます。さらにメニュー数が減ればオーダーミスも減るし、盛り付けも揃う。店員のオペレーションもラクになる。