30年前から「ビール離れ」は運命づけられていた
「我が世の春」
と有頂天となっている時に滅びの種が蒔かれはじめるものです。ビールの巨大工場が閉鎖されるニュースが話題になっていますが、ビール各社にとっては1990年代前半、ひとりあたり酒類消費量が最高潮だったときに「3つの滅びの種」が誕生しました。
ビール類市場は2021年まで17年連続で縮小しています。日本人が浴びるほどアルコールを飲んでいた狂乱の1990年代と比べれば近年のひとりあたり消費量は8割まで減りました。ビール各社のこれからの戦略はどうあるべきなのでしょうか?
若者のビール離れが言われるようになって久しいですが、因果関係を考えると逆でしょう。若者がビールから離れるようにメーカーが仕向けた。悪いのは若者ではなくメーカーだという説です。はっきりと言えばビールメーカーが「まずいビール」と「高いビール」に力を入れはじめたときから、今日のビール離れは運命づけられていたのでしょう。
この話をすると経済評論家としては仕事が減ってしまうかもしれませんが、こういうことははっきりと言っておいたほうがいいでしょう。まずいビールとは酒税法上はビールではないビール類のこと。つまり新ジャンルと呼ばれる酒税の安いビールのことで、1990年代を境に若者は主にこのまずいビール類を飲む運命になりました。理由はビール会社がそのように戦略を定めたからです。
発泡酒出現のタイミングで、酒類の消費量は減っていた
バブルが崩壊した1990年代前半に酒類販売免許制度が緩和されてディスカウントストアでビールを扱えるようになったことがきっかけで、ビール各社が酒税の安い発泡酒に力を入れるようになりました。
実はこの当時、海外の有名ブランドのビールが日本の酒税法上は発泡酒になることがビール各社の間で話題になっていました。そのブランドはビールではないとブランドイメージが悪くなるということで、成分的には発泡酒でもあえてビールの酒税を収めて国内で販売していたのです。が、逆に言えば発泡酒でも十分においしいビールを作ることができるということでした。
そんなことからビール各社が発泡酒に力を入れはじめたことで1990年代中盤に発泡酒ブームが起きます。後から歴史を振り返れば、日本人のひとりあたり酒類消費量のトレンドが変化して、需要ががくんと減ったのはこの発泡酒出現のタイミングでした。90年代前半の消費量を100とすれば90年代後半の消費量は95に下がったのです。