機能不全の日本型雇用

日本経済は戦後、西欧先進諸国を目指してキャッチアップを続ける過程で驚異的な経済成長を実現しました。1955年から70年ごろまで、経済成長率は年平均10%と高いものでした。経済が急速かつ持続的に成長したため、労働需要が拡大、企業は雇用を増やし続けました。当時は、人口構造が若く、若年労働者の供給が豊富であったため、企業は卒業を迎えた学生を定期的に大量に雇い入れていきました。これが今も続く新卒一括採用の始まりです。

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労働力を調達、訓練して定着させることが企業にとっての至上命題となり、雇用整理や人員整理などを考える暇はありませんでした。その結果、労働者はひとたび企業に雇われると解雇されるのを心配することなく、退職年齢まで雇用が保障されると思い込むようになったのです。雇用は安泰という観念が生まれ、それがいつしか社会的通念として定着、終身雇用となりました。

また、所得水準向上に伴う賃上げと企業が提供する訓練によるスキル向上に伴う昇給により、年々、賃金は上昇しました。その結果、勤続年数とともに賃金が上昇する年功賃金が日本で普及していったのです。

しかし、雇用は生産の派生需要であり、経済環境が変われば雇用のあり方はそれに応じて変わる必要があります。この30年間、日本経済それ自体、そして、日本経済を取り巻く環境も大きく変化しました。日本経済は長期にわたり停滞し、日本は世界で最も高齢化が進んだ国となりました。また、世界ではテクノロジーが進歩し、グローバル化が進みました。

このように日本的雇用慣行の前提条件である持続的で高い経済成長と若い世代が多い人口構造が失われ、さらに雇用環境のトレンドが大きく変わったため、日本的雇用慣行の合理性は大きく低下しました。しかしながら、過去の特殊な雇用慣行が維持されているため、労働市場に多くの矛盾や問題が発生しています。

日本型雇用が想定する労働者は専業主婦付き男性正社員です。つまり、高齢者や女性、非正社員は想定されていません。それゆえ、日本的雇用慣行を維持しようとすれば、高齢者の就業が難しいだけでなく、女性が働こうとすると仕事と家庭の両立が難しかったり、正社員と非正社員間で大きな格差が生じたり、さらには、正社員も終身雇用で守られることの代償として、長時間無限定就業や転勤などを受け入れざるを得なくなっています。

日本の賃金設計では「ダラダラ働く方がトク」

これらの背景には賃金設計の問題もあります。日本では労働基準法により、基本的に労働者は労働時間に基づき報酬が支払われることになっています。製造業のように、生産量が製造ラインの稼働時間とリンクしている業種では、労働の成果を労働時間で測ることが適しています。

しかし、非製造業では、労働成果と労働時間は必ずしも一対一で対応しません。例えば、教育や福祉サービスの分野では、長時間サービスを提供し続けたとしても、その成果が必ずしも大きくなるとは限りません。

高度経済成長期のように製造業のシェアが高かった時代には、労働時間に基づく賃金決定は労働者の意欲を高め、生産面において効果があったといえます。しかし、非製造業のシェアが約8割を占める現在、この賃金設計は適切とは言えなくなっており、むしろ漫然とした働き方につながっています。