人間は歳をとるほど個人差が大きくなる
2060年には、日本国民の約2.5人に1人が65歳以上の高齢者となることが予測されています。すなわち、これからやってくる人生100年時代は、高齢者がマジョリティ(多数派)になる社会です。
人間という生き物は、子どもから現役世代にかけては、誰もがだいたい一定の幅の中に収まることが多いのです。たとえば普通の公立小学校を見れば、生徒の中で超優等生と超劣等生の間のIQの幅は、80から120くらいです。50m走をすれば、速い子で6~8秒くらい、遅い子でも15秒あればゴールします。若いときには、せいぜいそのくらいの差しかありません。
ところが、80歳の高齢者同士を比べるとどうでしょう? 一方で認知症のために言葉さえ理解できなかったり、寝たきりの人がいますが、他方では大学教授を続けたり、立派な業績を残すくらいしっかりしている人もいます。運動能力においても普通に走れたり、泳げたりする人がいます。
歳をとればとるほど、若いとき以上に、身体能力、健康状態の個人差が大きくなってくる。人生100年時代を迎えるにあたって、まずこのことを理解してほしいのです。
現代の医学では年齢にも遺伝にも勝てない
私は、これまで30年以上にわたって高齢者医療に携わってきましたが、無力感を覚えるときもあります。
たとえば、若いころからタバコをスパスパ吸い続けていても、100歳近くまで大病もせず、元気な人がいます。他方で、体への意識が高く、日々の健康管理や食事制限に積極的で体に気を遣ってきたのに、若くしてがんや心筋梗塞などに侵される人もいます。
残念ですが、いまの医療技術では、遺伝にはけっして勝てないのです。親が認知症であれば、子どもも認知症になる可能性が高いですし、「がん家系」といった表現があるのが現状です。
歳をとっても衰えないように体や脳を使い続けることは大切ですが、無駄な節制などはやめたほうがいい、というのが、医者としての私の正直な意見です。
もちろん、肝臓を壊すまでお酒を飲むなど、体を悪くすることをしても構わないということではありません。ただ、常に「節制しなければ……」と神経質にならなくてもいい、過剰に禁欲的でなくていい、ということです。
日本人には、遺伝に勝てるような錯覚をどこかで持っている人が多いように感じます。日本は、戦前までは先進国の中でも有数の平均寿命の短い国家だったのに、戦後に一気に最長寿国になったことで、健康管理に努めれば健康で長生きできると勘違いしているのです。
しかし実際は、努力したからではなく、食べ物がよくなって栄養状態が改善したから、戦後の日本人は長寿になったのです。