企業価値を算出できる分野に投資
バフェットはこの「安全域」を常に意識しながら投資をしています。株価というのは、先ほども述べたように常に適正な価格になっているとは限りません。企業が持つ価値以上に過大評価されることもあれば、企業価値は高いにもかかわらず、さまざまな要因から驚くほど株価が低迷することもあります。
結果、その企業の株価が低迷し、企業価値と株価が大きく乖離したときがバフェットにとっては投資の最大のチャンスであり、その段階で投資を行えば投資の持つリスクを低く抑えることができるのです。
バフェットは安全域の良い例として先述したようにワシントン・ポストを挙げています。1973年当時、ワシントン・ポストの価格(時価総額)は8000万ドル、それに対して価値(純資産)は4億ドルを超えていました。バフェットはこう考えました。「価格とは、何かを買うときに支払うもの。価値とは、何かを買うときに手に入れるもの」(『バフェットの投資原則』)
企業価値を算出するための方法は、①コストアプローチ(企業が持つ資産に基づいた算出方法)、②インカムアプローチ(キャッシュフローに基づいた算出方法)——といった手法がありますが、いずれにしても自分が投資しようとする企業について、その企業価値をおおざっぱにでもつかむことが安全域を知るためのポイントとなります。
バフェットが「能力の輪」を重視するのは、こうした企業価値について自分がきちんと算出できる分野であることが大切と考えているからです。
1060万ドルの投資が1億4000万ドルに
このとき、バフェットはワシントン・ポストのすべてを買いこそしなかったものの、8000万ドルを支払えば、4億ドルもの価値を手に入れられるわけですから、これほどリスクのない買い物はありませんでした。
結果、このときにバフェットが支払った1060万ドルがどうなったでしょうか。
10年余りたった1984年、その価値は1億4000万ドル(『バフェットの投資原則』)に達したとして、バフェットはワシントン・ポストの社主キャサリン・グレアムにお礼の手紙を出しています。
参考までに、同様の投資を他の新聞社に行ったと仮定すると、ダウ・ジョーンズなら5000万ドル、ニューヨーク・タイムズなら6000万ドル、タイムズ・ミラーなら4000万ドルになったといいますから、支払う価格は同じでも、その企業が持つ価値によって10年余りでこれほどの差が生じることになるのです。