日本に来てすぐに困惑した「よろしくお願いします」という言葉

【塚谷】話は戻るんですが、日本語のカタカナの表記に大きな問題があることは間違いないんですが、そもそもヨーロッパのいろいろな言語を見ても、綴りを見て発音をそのまま読めない例外的な言語が英語だと思うんです。ほとんどの言語は書いてある文字の通りに読めば、たいてい発音は合っています。

【バラカン】そうですね、フランス語にしても、最後の子音が発音されるかどうかはケイス・バイ・ケイスですが、それ以外はほとんど簡単なルールを覚えれば全部わかる。ドイツ語もスペイン語も、イタリア語もそうですね。英語は本当に例外だらけです。例外だらけの特殊な言葉が世界標準の言葉になっているわけで、英語はいろいろある言語の中で一番苦労する言語だと思ってます。

ぼくが日本に来てすぐの頃、「よろしくお願いします」が何を意味するのか、まったく理解できない言葉でした(笑)。

【塚谷】たしかに、ヨーロッパにはそういう言葉はないですよね。

【バラカン】そう。だから最初は自分で言うのが気持ち悪かった。今はもう、さすがに何十年も日本にいるから何も考えずに言いますけど、これは何のために言うのか、何を意味しているのか、とにかく理解できない言葉でした。

【塚谷】バラカンさんが「よろしくお願いします」っていつも言っている裏で苦しんでいたとは(笑)。

「お疲れさまでした」「ご苦労さまでした」も翻訳できない

【バラカン】海外から日本に来た人は、ぼくと同じようにそのことで一度は悩むと思うんです。だって訳せないでしょ。これは英語でどう言えばいいのか、いまだにぼくはわからないし訳せない。他にも「お疲れさまでした」とか「ご苦労さまでした」とか、そういう挨拶の言葉はたくさんありますけど、これもThank youとか味気ない訳しかないと思うんです。

【塚谷】あとはHave a nice day.とか。まあ「頑張ってね」みたいな感じですね。

【バラカン】See you tomorrow.とか(笑)。そういうのはまだかろうじて訳せるけど、「よろしくお願いします」はいまだに訳せない(笑)。でも「よろしくお願いします」は日本社会の重要な接着剤・潤滑油ですよね。あの言葉をなくしたら日本人はみんなどうするんだろう。えらく困ってしまいますよね。

【塚谷】この言葉については、ヨーロッパやアメリカの人たちに説明が付かないですよね。