どうしても悪口を言いたいときには、どんな言葉を選べばいいのか。「インテリ悪口専業作家」を名乗る堀元見さんは「不快な気持ちを楽しさに変えられるのが正しい悪口だ。話が長い上司には『ネルソン提督のようですね』と言ってみてはどうだろうか」という――。

※本稿は、堀元見『教養悪口本』(光文社)の一部を再編集したものです。

ネルソン提督の肖像が用いられた切手
写真=iStock.com/andylid
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イギリスの苦境を救ったネルソン提督

ネルソン提督といえば、世界三大提督にも数えられる、イギリスの英雄である。カッコいい逸話だらけで、「マンガの主人公じゃん」と言いたくなるような男だ。

そんな彼の名前を使って上司の悪口を言えば、聞いた上司もまさか悪口だとは思わない。むしろ「褒められてる!」と思うだろう。完全無欠のサイレント悪口なので、初心者にもオススメだ。

1805年、ナポレオン率いるフランスはヨーロッパを丸ごと手中にしたと言ってもいい勢力を誇り、巨大な軍隊を組織していた。このままだとイギリスも侵略されそうだ。イギリス人的にはめっちゃピンチである。

そんなイギリスの苦境を救ったのが、ネルソン提督だ。飛ぶ鳥を落とす勢いのフランス(とスペイン)の連合艦隊に対して、彼は鮮やかな勝利を収めた。その戦いは「トラファルガーの海戦」と呼ばれる。

イギリス側の死者は推定449人だったのに対し、フランス・スペイン側の死者は推定4395人。実に10倍だ。フランス側の船はほとんどが大破するか拿捕だほされて、フランス海軍は事実上壊滅した。まさに圧勝である。

「各員がその義務を果たすことを期待する」

この圧勝っぷりだけでもマンガっぽいのだが、ネルソン提督のエピソードはもっとずっとマンガっぽい。

まず開戦時。ネルソン提督は「英国は各員がその義務を果たすことを期待する」という信号を出した。イギリス人のプライドを刺激する、提督からの鋭い激励の言葉。これを受け取った船員は大歓声をあげ、圧倒的な士気で戦に臨んだとされている。すごい。

マンガだ。ほぼ『キングダム』の世界。

戦の展開もすごい。ネルソン提督が考案した新戦術は「ネルソンタッチ」と呼ばれており、当時の常識を覆すものだった。細長い隊列を組んだ敵艦隊の真ん中に突っ込んでいき、敵を分断するというめちゃくちゃ危なそうな作戦だ。