「今この大事なタイミングでポエム?」

どうだろう。これを解読するのは明らかにめんどくさそうだと思わないだろうか。

実際、解読には4分ほどかかったと推測される。LINEをポンと送れば済む現代とは大違いで、当時は読む側の負担がバカでかいのだ。

堀元見『教養悪口本』(光文社)
堀元見『教養悪口本』(光文社)

ここで、当時の艦長たちの気持ちになってみてほしい。

あなたは艦長で、これから戦いに挑む。いよいよ相手の艦隊が目の前に見えてきた。もう間もなく戦闘が始まる緊迫の瞬間。全ての集中力を目の前の相手に注ぎたいだろう。いわば「全集中・艦長の呼吸」に入っている。

そこに突如として、提督からの信号が送られてきた。旗が掲示されたのだ。このタイミングで送られてくるということは、戦略的に重要な情報に違いない。作戦の変更だろうか?

解読係に急いで解読させる。あなたの全集中はすっかり途切れている。信号の内容次第でこれからの動きが変わるかもしれない。

やっと信号が解読された! 内容は「英国は各員がその義務を果たすことを期待する」である。

あなたはこう思うだろう。「はぁあ?????」と。「ポエム??? 今この大事なタイミングでポエム???? オレ忙しいんだけど???」と。「今まさにその義務を果たすのをお前が邪魔してるんだけど???」と。

部下の時間をムダにさせたダルい上司だった

実際、一部の水兵や士官たちから「言われなくてもやってるだろ」「今それ言う必要あった?」などの不満が出たし、多くの水兵はブツブツ文句を言ってたらしい。

ネルソン提督は英雄だが、開戦直前の忙しい時に余計なこと言って部下の時間をムダにさせちゃったダルい上司でもある。完璧な英雄など存在しないのかもしれない。

ということで、話が長い上司には「ネルソン提督のようですね」と言ってあげると良いだろう。

特に、大事なプレゼンの直前に精神論を語ってきて準備の時間を奪う上司などに使うとピッタリだ。

【あなた】「…… ……(プレゼンに向けて資料の確認をしている)」
【課長】「山本くん、ちょっといいか?」
【あなた】「はい」
【課長】「今日のプレゼンは大事だぞ! お前はうちの部署のエースなんだ! 全力を尽くせよ! オレは昔からお前に心から期待していて……」
【あなた】「(いや、そんなことより資料の確認したいんですが……)」
【課長】「……だから、全力で挑んでくれよ!」
【あなた】「承知しました! 課長、ネルソン提督みたいですね!」

参考文献/ロイ・アドキンズ『トラファルガル海戦物語(上・下)』(山本史郎訳・原書房)

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