「あなたの意見は?」に疲れて日本に来たスイス人女性
【塚谷】日本には「わび・さび」「もののあはれ」という言葉がありますが、これは日本の災害から来ているのかなと思うことがあります。自然災害が多いからこそ、明日は滅びてなくなるかもしれないという考え方が出てきたのかなと。ぼくは「わび・さび」についてヨーロッパの人に説明しようとして成功したためしがありません。
【バラカン】まあ、仏教の世界観もあるでしょうね。「もののあはれ」は仏教プラス日本独特の考え方ではないかと思いますね。
【塚谷】ぼくがデザインを頼んでいる人がスイス人の女性なんです。彼女は日本でデザインの仕事をしていて、海外の企業から日本で販売する商品のデザインを頼まれていて、とても活躍している。
その彼女に、なぜ日本に来たのか聞いたことがあるんです。彼女によると、スイスの学校では毎日のように「あなたの意見は?」「あなたは何をしたいの?」「あなたの意見を言いなさい」と言われていたけれども、自分にはそんなに意見もないし言いたくもない。「いちいち聞いてくんなよ! うるせーんだよ!」と心の中で叫んでいたと。
だからいちいちそういうことを言われるのが嫌で仕方がなかった。日本に来たら誰も何も聞いてこないし、何も言ってこない。これは天国だということで、日本に住んで仕事をすることに決めたそうです。
これはものすごく珍しい例ですね。逆に、すごくうるさい日本人がヨーロッパでうまくやってる例もあるんですよ。はっきり物事を言う日本人というのはたまにいて、そういう人たちはヨーロッパに比較的うまく溶け込んでいる。
番組後のコメントは「お疲れさま」だけ
普通、ヨーロッパの人が日本に来ると「何も意見を言ってくれない」「自分のことについていいとも悪いとも言ってくれない」「自分の意見を言おうとすると受け付けてくれない」などと言いますが、バラカンさんはそういう嫌な思いをされましたか?
【バラカン】嫌な思いというほどでもないけど、ぼくは毎週番組をやっていて、終わったときに「今日はよかったね」とか「今日のあそこがいま一つだったね」とか誰も言ってくれません。「お疲れさま」というのが唯一の反応で、何でも「お疲れさま」なんですよ。
だから本当によかったときには「今日はすごくよかった」とか、一言言ってくれると嬉しい。あるいは「今日はちょっとあそこ、ぎくしゃくしたな」とか「あの一言は言いすぎだよね」とか、そういうのでも参考になるし。ライターと編集者の関係、ラジオの出演者とディレクターないしプロデューサーの関係というのは本来、そういうものだと思うんです。
フィードバックがあるからこそ伸びるし、成長する。そういうフィードバックがないと「これで本当によかったのか」「自己満足だけでやっているのか」と時々不安になる。それがちょっと物足りないですね。