2020年、介護事業社の倒産件数は過去最多に

団地内には、利用者を送迎する介護施設のミニバンが何台も行き来している。高齢者が増えているからそれは分かるんですが、おしなべて車体がベコベコにへこんで、傷ついているんですよ。飲食店に置き換えたら、施設名を書いているクルマは、暖簾や看板みたいなものでしょう。そんな施設に、自分の親を預けたらどうなるのか、と考えてゾッとしました。しかも、特定の介護施設のクルマではなく、見かけるクルマほとんどがそう。きっと業界全体に構造的な問題があるのではないか、と思ったんです。

撮影=宇佐美雅浩
相場英雄さん

実は……別のメディアでこの話をしたら、介護業界で働く人から苦言を呈されました。「クルマが傷つくのは利用者さんのことを考え、玄関のギリギリまで車を寄せるからだ」「人手が足りないので、専門の運転手ではなく、事務職の人が運転しているからだ」……。

もちろん善意で働く人がほとんどでしょう。しかしコロナ禍で介護業界が抱える問題が露わになった。

日本では2000年から介護保険制度がスタートしました。それまで公的な施設が担っていた介護を民間企業に丸投げした。そしてコロナ禍で、介護サービスの利用を控える人が増えた。僕の実感としても、コロナの影響で介護業界はさらに苦しい状態に陥っている。コロナ禍でも団地の近所にデイサービスの事業所が何軒かオープンしました。高齢化が進む地域だからニーズがあるんだと受け止めていました。でも、事業所は1年も経たずに看板を下ろしてしまう。実際に、2020年の介護事業社の倒産件数は、過去最多を記録しました。

切羽詰まって不正行為に手を染めるケースも…

そうした厳しい経営状況下で、施設の経営者や運営者は、最低限の人員で、最大限の利益を得ようと躍起にならざるをえない。そのしわ寄せがくるのが、介護スタッフです。低賃金で長時間労働を余儀なくされる。

相場英雄『マンモスの抜け殻』(文藝春秋)

さらに悪質な施設は、介護漬けにした利用者に必要のないサービスを押しつけ、国から余分に保険料を請求する“漬け”と称される不正行為に手を染める。なかには、反社会勢力が介護事業を買収し、助成金詐欺を行うケースもあるそうです。

――それまで健全に運営していた施設や事業所でも切羽詰まって、不正を行わなければ事業を継続できなくなる状況とも言えますね。

そう思います。マジメな人が一番割を食ってしまう構造になっている気がします。経営者も、現場の介護スタッフも……。介護職を希望するほとんどの人は、人の役に立ちたいと思っているわけでしょう。岸田政権は保育士や医療関係者の給料の底上げをすると語っていますが、介護にもきちんと目を向けてもらいたいですね。(後編に続く)

(聞き手・構成=ノンフィクションライター・山川 徹)
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