訪問看護師も「家での看取りを勧める気持ちは全くない」
生き死にに関する自分の考えは、その都度変わっていい。大切なことは現時点での“自分の答え”を出すこと。
訪問看護師の小畑雅子さんは、「在宅看取りの支援をしている立場ですが、家での看取りを勧める気持ちは全くない」と話す。
「その人が望まれたところで最期を迎えられるのが幸いだと思います。だから最期の時を大切に生きてもらえるように、その時々のさまざまな選択を助けることも、私たちの重要な仕事だと思っていて、どっちが良いとか、どうあるべき、という主観をもたないようにしている」
ただし、コロナ発生以降、そして今後は一層、家で死ぬ傾向が強まる、とケアマネージャーの吉野清美さんはみる。
「超高齢化社会で入院患者が多いため、基本的にがんの末期で治療のない方は家に帰されると思います。また緩和ケア病棟での入院は費用がかさみます。医療費だけでなく、個室費がかかる場合も少なくありません。そのためコロナで打撃を受けた旅行業界やイベントに携わる方などは経済的に難しく、すでに病院で死ねない状況が発生しています。さらに病院側も、コロナ禍での人員不足や感染予防に手間暇がかかり、以前のような細かいケアができない状況があります。患者さん側もまた面会制限があって大切な人に会えないですし、家に帰りたいという方が増えているのが現実です」
現実的に「病院では死ねない時代」がやってくる
2020年の日本の死者数はおよそ138万人であるが、2030年頃には年間の死者数が160万人を超えると推計されている。多死社会の到来だ。病院で死にたい、いやいや家で、などの個人の希望はさておき、現実的に「病院では死ねない時代」がやってくるということだ。あるいは突然死、事故死などでそんなことを考える間もなく、人生の幕が下りるかもしれない。
それでも、自分がどこで死ぬかを具体的にリアルに考えること、死というゴールを見つめることは、だから今どう生きるのかにつながっていくと私は思う。
「家で死ぬのは簡単じゃない」
その続きは、人によりさまざまだ。だから病院で死にたい、けれどやっぱり私は家で死にたい。ギリギリまで家で、最後は病院に行きたい……など。それは、今のあなたが決めた答えだ。大切なことは、「誰かのために」「医師から言われたから」ではなく、最後こそ自分で決めていくことではないだろうか。
次回は、訪問診療の現場をレポートする。(続く。第11回は2月公開予定)