目の前で家族が苦しみ続けるという地獄のような時間

電話を切り、宮本さんは救急車を呼んだ。そして救急隊に患者を託し、許可を得た緩和ケア病棟への搬送を頼んだ。

救急車を見送ると、同乗できなかった家族が宮本さんを恨めしげに見つめて言った。

「在宅ってこんなんでしたか? もうトラウマです。この何時間、僕たちにとって地獄でした」

宮本さんは「そうですよね」と、何度も頭を下げるしかなかった。

「もし患者さんが(緩和ケア病棟から)帰ってきたら、訪問の先生を代えることができますから。もちろん、私たちのことも代えられます。退院する時に相談してください。いい先生、いっぱいいますから」

しかし、その女性患者は翌日、緩和ケア病棟で亡くなったという。

「訪問医」と「訪問看護師」はいつもセットではない

当時を振り返って、宮本さんはこう話す。

「麻薬の使い方は、訪問医の経験と熱意によって異なります。この患者さんの場合は、医師が家族にもっと丁寧に状況を説明して、痛みで苦しまないことを最優先にし、穏やかな最期にするような薬の使い方をすれば、家族も本人もこのような思いをしなかったでしょう。心ある訪問医なら、その患者さんがどう生きてきたか、どのような性格かをふまえて、臨機応変に薬を選択し、そのたびに説明します。家族とまだ話したい人、最後まで意識を失いたくない人、痛みに弱い人などさまざまな人がいるんです。患者さんを主としながら、さらに残された家族のことも配慮して関わる訪問医だってたくさんいます」

「訪問医」と「訪問看護師」はいつも“セット”ではない。宮本さんはその訪問医とは初めての関わりだったという。

「病院から退院する際、訪問看護が必要となると、まず訪問看護ステーションに依頼がきます。病院側から『近隣でいい先生がいたら紹介してください』と言われることもありますし、長く同じ病を患っている方はもともと地域にかかりつけ医の先生がいて、その方が主治医になる場合もあります。ケアマネージャーさんが『この訪問医の先生でお願いします』と指定する場合もあります」(宮本さん)