患者さんを受け入れなければ地域住民の信頼を失う

湘南鎌倉総合病院の篠崎伸明院長は2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号に乗船していた新型コロナ患者を初めて受け入れた時点で、「コロナ患者を含め、生死に関わる救急を最後まで死守する」と宣言した。

湘南鎌倉総合病院の篠崎伸明院長(撮影=笹井恵里子)

感染者が増えて医療従事者の人手が足りなくなったら、緊急性の低い「予定入院」といわれる患者の数を調整して、病院本体のベッドを閉鎖し、そこを担当していた医師や看護師をコロナ治療に充てればいい、と篠崎院長は考えた。実際に同院にある約650のベッドのうち100を閉鎖して、コロナ治療のための人員を捻出した時期もあった。実はこの時、経営上マイナスだったという。

「状況が厳しいときは使命感でがんばってきました。患者さんを受け入れなければ地域住民の信頼を失う。そうなればこの病院の将来はないと思ってきました」(篠崎院長)

同院は、神奈川県から中等症患者を集中的に受け入れる「重点医療機関」に指定され、5棟のコロナ臨時病棟の運営を託された。5棟あわせて180床だ。一晩で13人、一日で16人のコロナ患者の入院を受け入れたこともあった。これは全国でコロナを受け入れている医療機関が聞けば驚異的な人数だろう。これまで1800人を超える患者が、このコロナ臨時病棟で治療を受けたのだ。

「感染が収束するだろう」という楽観的予測はしない

徳洲会という病院はその時々でフル稼働でありながら、「常に先をみている」と私は感じる。「感染が収束するだろう」という楽観的予測をせず、現状で対応するには何が足りないか、そしてこれ以上状況が悪くなった時にどういう手段がとれるか、皆で知恵をしぼるのだ。不測の事態への担保があるからこそ、現状をめいっぱいがんばれる、次々にやってくる患者を躊躇なく受け入れられるのだろう。

岸和田徳洲会病院救命救急センター長の鍜冶有登医師はこう話していた。

岸和田徳洲会病院救命救急センター長の鍜冶有登医師(撮影=笹井恵里子)

「『この規定があるから無理』となるのが一般的な病院ですが、ここは『困ってたらしゃーない』とみんな言うんです。ですから重症患者の受け入れも、ここは『15』と大阪府に申請しているのですが、行き先のない患者さんがくれば、それ以上になっても受け入れますよ」

大阪府では災害発生時の救急受け入れ体制が、阪神・淡路大震災後に構築された。普通なら災害が起こった時に近場の病院が受け入れることが多いが、大阪府ではまず大阪急性期・総合医療センター救命救急センター長が連絡を受け、各病院に患者を数人ずつ振り分ける。数人なら、どの病院も通常の体制で受け入れることが可能だからだ。過去に福知山脱線事故や学校給食での食中毒発生の際に、そのような救急体制を敷いた。