いつまで「医療提供体制を整える」状況を続けるのか

それにコロナの発生前から、救急の医療現場では例年、1月~2月はインフルエンザ患者が大量に押し寄せて厳しい状況だった。コロナの患者が受け入れられない病院は、もともと救急の患者を断ってきた可能性が高い。コロナ禍で病床逼迫した病院や地域は、もともと患者受け入れ体制が整っていなかったのではないだろうか。

コロナを言い訳にし、いつまで「医療提供体制を整える」状況を続けているのか。全ての病院が自分たちのできるめいっぱいで患者を受け入れれば、医療崩壊など日本では起きないのではないか。

岸和田徳洲会病院も、湘南鎌倉総合病院も徳洲会グループに属する病院であるが、徳洲会は24時間365日、“断らない医療”を掲げ、すべての救急患者を受け入れる方針だ。コロナ発生の前から、私は全国70施設を有する同グループの医師に取材してきたが、ベテランでも新人でも、彼らは「ベッドがいっぱいだから、これ以上、患者を受け入れられない」という言葉を口にしない。

山上医師は常日頃から「患者さんを“受け入れられない理由”を述べるより、目の前の患者さんを、救急車を、“どうすれば受け入れられるか”を考えたい」と話している。

「24時間、年中無休で救急患者を受け入れる」という理念

“断らない医療”の根底にあるのは、徳洲会創設者である徳田虎雄氏の理念だ。

虎雄氏の原点は、9歳の時の出来事にある。父の留守中、弟が突然発病し、兄の虎雄が往診を頼みに夜道を駆け、医者の門を叩いた。しかし医者は来てくれなかった。そして翌日の昼に医者が来た時には弟は冷たくなっていたという。

死ぬ前に診るのが医者ではないか、貧乏人は助けてくれないのか――虎雄氏の当時の悔しさが1973年、徳田病院(現・松原徳洲会病院)を生み出し、1975年の医療法人徳洲会設立に結びついた。

徳洲会は「生命だけは平等だ」という理念のもとに

<24時間、年中無休で救急患者を受け入れる>
<患者からの贈り物は一切受け取らない>
<総室(大部屋)の室料差額の無料化>

などの方針を次々に打ち出し、地方自治体や日本医師会とたびたび対立しながら全国各地に病院を開設していった。特に離島や僻地に、最新の医療機器や設備を導入した病院や診療所を開設して医療環境を改善することに力を注いだ。「医療のないところに人は住めない」と考えているためだ。

特州会の病院に掲げられてる「生命だけは平等だ」の標語
撮影=笹井恵里子
徳洲会の病院に掲げられてる「生命だけは平等だ」の標語