白髪も老化との関係性はまだわかっていない
また、薄毛と同様に見た目年齢を大きく左右するのが白髪ですが、白髪もたしかに老化現象ではありますが、老化細胞による炎症と関係があるとは証明できていません。髪の毛が白くなるのは、毛母細胞にある毛母メラノサイトの働きが低下して、メラニンという黒い色素の産生能力が低下していくためです。
このメラニン色素の産生能力は個人差が大きいものです。褐色や金髪などの髪の色を持つ人たちは、もともとこのメラニン色素の産生量がそれほど多くないため、髪の毛が黒くならないのです。金髪や赤毛、栗毛など、髪の毛の色は遺伝的要素が大きく、それはメラノサイトによるメラニン色素の産生能力によって決まると考えられています。つまり、メラニン色素の産生の能力は、必ずしも老化によって左右されるものではないということです。
とはいえ、なぜメラノサイトの働きが低下していくのかということについて、はっきりとしたメカニズムは解明されていませんから、細胞老化の可能性を完全に否定するものではありません。老化細胞を除去することで白髪がなくなるかどうかは、薄毛と同様に、わからない、ということになります。
なぜ老化細胞は蓄積されてしまうのか
ここでは、老化細胞がなぜ死ぬことなく生き延びて蓄積されていってしまうのか、というメカニズムについて説明していきましょう。人間の細胞の中には、リソソームという細胞小器官があります。リソソームは古くなったタンパク質を取り込んで分解するための器官で、その内側は強力な酸性になっています。
細胞が老化してくると、リソソームの膜に傷がついてしまい、そこから内部の酸性物質が染み出してきて細胞全体が酸性に傾いてしまいます。細胞全体が酸性化してしまうと、本来の細胞であれば死んでしまうはずなのですが、老化細胞はGLS-1という酵素を活性化し、大量に発現させて生き延びてしまうということが私たちの研究でわかってきました。
なぜGLS-1という酵素が出てくると老化細胞が生き延びるのか─。
GLS-1はグルタミンをグルタミン酸に変換する酵素なのですが、この代謝の過程でアンモニアをたくさんつくり出します。アンモニアはアルカリ性の物質のため、酸性化していた老化細胞を中和してしまい、老化細胞を延命させてしまうのです。老化細胞は、酸化してしまった自分を中和することで生き延びるべく、GLS-1酵素を大量に発現させていると考えられます。