悟り得ない凡人が身につけるべき「思考の方法」

利他の心で考えれば、「そっちではなくてこっちだろう。そっちには溝があるやないか。溝に落ちるやないか」と見えるのですが、本人には見えていない。アスファルトに見えて、デコボコの畦道より歩きやすいと思う。そして溝に足を踏み入れて、ドボンと落ちてしまう。欲でもって見ているから、そうなるのです。

修行をしていない我々凡人は、「利他の心で判断せよ」と言われてもチンプンカンプンで、分からないわけです。すぐにまた「儲かるか、儲からないか」で考えてしまいます。それでは何にもなりませんから、一つ方法を教えます。

物事を考えなければならないとき、例えばこれを買うか買わないか、これを売るか売らないか、頼まれたことをするかしないか、というようなことを考えるとき、「よし、これをやろう」とフッと思う。それは全部、本能から出てきたものなので、最初に出てきたその思いに、ひと呼吸入れるのです。

稲盛和夫述・稲盛ライブラリー編『経営のこころ 会社を伸ばすリーダーシップ』(PHP研究所)

その思いを一度、横に置いて、「ちょっと待てよ。俺が儲かるか儲からないかではなく、相手にとっていいか悪いかで考えてみよう」と、ワンクッション入れる。そして、「自分にもいいけれど、相手にとっても悪くない。相手も喜んでくれる」となったときに判断を下す。

そうしないと、どうしても自分に都合がいい話にポンと乗ってしまって、相手にたいへんな不利益を被らせかねません。

利他の心は悟りの境地、最高の判断基準です。我々は悟ってなどいませんから、利他の心で判断しようと思っても、なかなかできるものではありません。

ですから必ず、「いいな」と思った瞬間、「ちょっと待て」と自分を抑える。そして「相手にとってはどうだろうか」と考えて、「相手にとってもいい」と確信したときに結論を出す。思考のプロセスにそういう回路を入れておくことがたいへん大事だと思います。いくら人間ができていなくても、習慣をつけさえすれば、それはできるはずです。

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