局長が局舎を貸すのは「やむを得ない場合」のみ
じつは日本郵便も民営化後、局長が局舎を取得するための条件を社内ルールで整備してきた。東証の上場審査ガイドラインで不当利益の供与や享受が禁じられていることも踏まえ、局長が局舎を取得して日本郵便に貸せるのは「本当にやむを得ない場合」に限ると定めている。
具体的には、局長が見つけた移転・開局の候補地が「最優良」であるのは当然として、①日本郵便が地主から土地などを直接には借りたり買ったりできないこと、②移転先などの公募を実施し、他に優良物件が見つからないこと、③日本郵便取締役会で決議を得ること、などの条件も満たす必要がある。
つまり、いくら局長が有力な候補地を見つけても、地主が大企業である日本郵便に土地を譲ってもいいと考えれば、局長が局舎を取得することは認められないのだ。
では、そんな社内ルールを設けているにもかかわらず、移転局舎の3割を局長が取得する「結果」はいかに作られたのか。
地主に「土地は局長にしか貸さないと言ってくれ」
筆者の取材では、こんな事例が見つかっている。
信越地方の60代の地主男性が3年ほど前、地元の局長に頼まれて土地を貸すことに同意したあと、こう懇願された。
「日本郵便の社員を連れてくるから、『土地は局長にしか貸さない』と言ってくれ」
日本郵便では、局長が移転候補地を見つけたあと、公募の手続きを始める前に、支社の社員が地主と会って直接取引する意思がないかどうかを確かめるステップを踏むのが決まりだ。地主が取引を拒んだ理由などは「対応記録表」に記されて本社に報告し、取締役会でも1件ずつ確認しているはずだ。
信越地方のケースでは、地主が顔なじみの局長の頼みを受け入れ、訪ねてきた社員に「局長には世話になっている」と言い、日本郵便との土地取引を断った。地主をそう唆した局長の行為が、日本郵便の取引を妨げ、賃料収入を自身のもとに誘導する目的だったことは論を俟たない。