モデルチェンジに限らず、作業者だって、1年ごとに新しい人間が入ってくる。メンバーが変われば作業の習熟度合いが違うから、ラインを組み直さなくてはならない。
つまり、現場から生まれたトヨタ生産方式は永遠に完成することはない。現場における前提条件が変われば運用を見直さなくてはならないから、生産方式が完成したり固定されることはない。
では、大野一派が現場を歩いて見つけるムダとはどういったものなのだろうか。
大野自身は7つに分類している。いずれもどこの工場の生産現場、事務所でもよくあることだ。
ひとつ つくりすぎのムダ
ふたつ 手待ちのムダ
三つ 運搬のムダ
四つ 加工そのもののムダ
五つ 在庫のムダ
六つ 動作のムダ
七つ 不良をつくるムダ
つくりすぎは「犯罪にも等しい」
このうち、大野がもっとも排除しようとしたのは「つくりすぎのムダ」である。
「どうして、つくりすぎがムダになるんだ。足りないより、多い方がいいじゃないか」
それが一般的な判断だろう。だが、大野は足りないことはよくないが、必要以上にモノを作ることは犯罪にも等しいとさえ言っている。
つくりすぎを排除することについては大野本人だけでなく多くの関係者が説明しているが、もっともわかりやすいのは、張富士夫のそれだ。
張は文科系の出身だ。技術系の人間とは違う角度で大野に質問している。張は技術についてはほぼ素人だったから、大野に対して初歩的な質問を繰り返したのである。
技術系の人間はついついテクニカルタームやトヨタ語(見える化、自工程完結など)で説明しようとするけれど、張は説明に際して小学校5年生が理解できるような平易な言葉しか使わない。
つくりすぎのムダについて、張は次のような例話を引いている。
「ある兄弟がおります。兄は社長で弟は生産担当の専務。カーペットの生産をやっている会社です。社長は『売れ行きに従って小さなロットで作れ』と言うけれど、弟は『高い金を出して買った工作機械の稼働率が落ちるから、大きなロットでしか作れない』と反論する。お兄さんはほとほと困っている。こういう例は枚挙にいとまがないのではないでしょうか」
在庫が生まれ、管理する場所や人件費も生まれ…
「また、こんなこともあります。
赤い色の製品を大ロットで作るとします。その間、ひとつしかないラインでは青や黄色の製品は作ることはできません。しかし、市場では赤だけでなく、青や黄色の製品も売れているわけだから、青や黄色の製品も持っていなくてはならない。そのためには各種類を半月分、一カ月分、持つということになる。