後継者もブランド展開も難しい、天才KOLは一代で終わるのか

特に有名配信者は自分の専門分野でないものも依頼を受けて紹介する場合も多い。だから本人よりも専門のスタッフが判断するほうがよいというのも合理的ではある。とはいえ、こうなると配信者は番組のいわば一出演者でしかない。

藤井直毅『新消費 デジタルが実現する新時代の価値創造』(プレジデント社)

しかし、薇婭は最終的な商品選択権を彼女自身が持っていると言われ、自分で試し、納得したものだけを売ることで自分の権力を守っている。だが、権力が彼女に集中することは、裏を返せば会社が彼女自身のキャパシティを超えては成長できず、彼女以外のタレントが育ちにくいということにもつながる。

ビジネスの展開として考えた場合、超スゴ腕の販売員であっても何かの専門家ではない彼女は、自分のブランドを張り付けた商品を開発することも難しい。たとえば、薇婭は2019年に「四季日記」というPBコスメブランドを立ち上げたが、あまり話題にならずにひっそりとクローズしている。彼女自身はコスメの専門家でないため、既存の取引先と競合しない。

またコスメ自体は一般的なライブコマースの人気商品ではあるので売れるのではという見込みだったと思われる。しかし裏を返せば、わざわざ彼女からコスメを買いたいと思う人は少なかったということだろう。

脱税が認定され約230億円の罰金を科される

人気絶頂の薇婭にも、試練が降りかかる。12月20日15時55分、浙江省杭州市の税務当局が2019年、20年の2年間について、個人として得たライブコマースの出演費などを法人所得として申告して納税額を故意に抑えたなどとして脱税と認定、追徴課税や延滞金などを合わせて13億4100万元(≒230億円)の罰金を科したと発表したのだ。

そこから1時間ほど経って薇婭本人、そして所属するMCNのトップである夫の董海鋒も声明を発表し、全面的に指摘を受け入れ、期限内に納税を行うとした。ほどなくして、薇婭の名を冠した公式アカウントは、中国のすべてのSNSプラットフォームから削除された。

正式に公開されているわけではないが、薇婭はライブコマースにおいて2020年だけで20億元ほどの売り上げを上げていると言われる。広告出演のギャラなどもあるのでライブコマース売上だけが彼女の収入というわけではないが、それだけを考えてもこの10%程度、単年で20億元以上の収入を得ている計算になる。であれば13億4100万元という罰金額は前代未聞ではあるが、払えない額ではないはず、と思えなくもない。

しかし、ほぼ個人企業であるMCN「謙尋文化」の運転資金もこの中から払われているはずだ。だから薇婭個人にどこまで資産として渡っているか不明なうえ、資産価値の維持向上やリスク管理の観点からもこうした莫大な収入を現金のまま寝かせておくことは少なく、不動産や証券、現物など様々な形に分散して保有することが多い。

納付期限があり、それまでに現金を用立てる必要があると誰もが知っている状況のなかでは、よい条件で現金化することは簡単ではないはずだ。そうした困難を乗り越え期限までに納付できるのか、そしてみそぎが済んだ後で、再起ができるのか、彼女の今後が注目される。

関連記事
「中国マネーより正義のほうが重要」女子テニス協会が"たった1人の告発"を優先したワケ
パンダ、トラ、シマウマ、イヌ…中国人がいつまで経ってもゲテモノ食をやめない理由
ひろゆきのスパチャ収益は6300万円超…日本の若者がライブ配信の高額課金にハマるワケ
韓国メディアの「反日報道」は、日本の「嫌韓」と比較にならないほど過激化している
東京随一の"セレブ通り"を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ