バナナジュースに大転換

黒田が考えていたのは、飲食店をめぐるビジネス環境の変化だ。メディアを活用することで行列ができるほどの人気を獲得してきたが、今やメディアはグルメ番組を放送することを自粛し、客は行列に並ぶことを回避するようになった。

「そんなときに、新店の話が来たんです」

黒田は楽しそうに、バナナジュース専門店を出店する話を明かした。

バナナジュースは、もともと焼きそばのサイドメニューとして販売していた。栄養価が高いうえに、簡単に作ることができる。しかもおいしい。事業を開始するにあたってクラウドファンディングで資金を募集したが、ある駅ビルの運営会社が注目して声を掛けてくれたという。

バナナジュースは持ち帰り専門なので、店舗にスペースを必要としない。製造過程もシンプルで、単価は安いが回転も速い。場所は京王線仙川駅だ。駅ナカなので、高いリピート率が期待できる。ビジネスの進め方を、根本から変える可能性を秘めていた。

バナナスタンド仙川店がオープンしたのは、8月末のことだった。仙川駅構内で、ホームにつながる階段近くにある約3坪のスペースを活用した。狭いが改札が一つしかないため、ほぼすべての利用客の目につく場所だ。

提供=バナナスタンド
バナナスタンド仙川店。

「20秒以内で提供」というスピードで競合と差別化

オープン初日は750杯を販売し、翌日も760杯を超えた。1日500杯を目標にしていただけに、黒田も驚きだった。1日600杯としても、340円の単価で売り上げは20万円程度になる。

ワンオペを基本に夕方だけアルバイトを2人入れると、人件費は1日1万6000円程度。売り上げの15%に設定された家賃に、原材料費25%、光熱費等で4000円程度とすると、利益は10万円程度だ。

飲食店で勝つための3つの条件は、バナナジュースでも変わらない。ただし、焼きそばと同じ戦い方をしても結果は見えている。バナナジュースは焼きそばの反省のうえに立ち、あらゆる運営を見直した。

オペレーション面では、再現性の追求を徹底した。簡素化したとはいえ、焼きそばは1杯作るのに相応の手間と時間がかかっていた。バナナジュースは、冷凍バナナと牛乳をミキサーでかき混ぜるだけなので間違えようがない。

提供するまでにかかる時間は、オペレーションの完成度を示している。先日ある競合店が都内に進出したが、1杯提供するのに数分かかっていた。継続的な客の来店に対応できるフローになっていないのだろう。

絶え間なく客が来るバナナスタンドは、ある程度作り置きしても鮮度を損なわない。事前に6~7割方作っておいて、オーダーと同時に完成させることで20秒以内の提供が可能になる。

値段設定でも、並サイズで340円は安い。毎日焼きそばを食べる人はあまりいないが、バナナジュースなら毎日の習慣になるポテンシャルがある。競合店は500円台で販売しているが、黒田はより価格に敏感な層への拡大に狙いを定めていた。

提供=バナナスタンド
バナナスタンドのバナナジュース。並サイズで1杯340円。