国民の目線を逸らす外交戦略も空回り

国民が苦境に立つとき、指導者が自らの批判を交わすために外交での成果のアピールに努めることはよくあることだ。エルドアン大統領が11月12日に「チゥルク諸国機構」の設立を表明したこともまた、そうした流れに位置付けられる。この枠組みの下、トルコは中央アジア・コーカサス諸国との連携関係を強化しようともくろんでいる。

2021年11月17日、トルコのエルドアン大統領(トルコ・アンカラ)写真=時事通信フォト

正式メンバーであるトルコ、アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスの5カ国の言葉は、いずれもチュルク語族に属する。以前からオブザーバーであったハンガリー(ただしウラル語族)に加えて、新たにトルクメニスタンがオブザーバーとなった。言語が近いこうした諸国に対し、トルコは影響力を強めようとしているのだ。

一見すると対等な協力関係の構築を目指しているように見えるエルドアン大統領であるが、実際のところ「チュルク諸国機構」は、俗に「新オスマン主義」とも言われるエルドアン大統領自身の強い対外拡張志向の表れにほかならない。かつて中近東を制したオスマン帝国の君主(スルタン)と自らを、エルドアン大統領は重ね合わせている。

とはいえ、各国はその歴史的経緯から基本的にロシアを向いている。トルコとの協力関係の深化に乗り気であるのは、せいぜいロシアと対立するアゼルバイジャンくらいだろう。国民が資産防衛のために耐久消費財を買いに急ぐようなトルコを盟主とする同盟関係に、中央アジア・コーカサス諸国がどれだけ本気になっているかなど、定かでない。

終わりが見えないリラ下落が物語る通貨政策の重要性

リラはいつまで、そしてどこまで下がるのか、もはや誰にも分からない。チャートが崩れたため、テクニカル分析はまず不可能だ。経済統計の信ぴょう性も低いため、ファンダメンタルズ分析もあまり意味をなさない。一つ言えることは、エルドアン大統領が改心するか、あるいは退場でもしない限りリラの下落は止まらないということだ。

トルコでは2023年6月18日までに次期の国政選挙(議会選と大統領選の同日選挙)が行われる。大統領に近いメディアが報じる以外、エルドアン大統領の支持率は当然だが低迷している。にもかかわらず「陰謀論」を振りかざしてリラ安に突き進み、国民生活を苦境に追い込むエルドアン大統領のスタンスには憤りを禁じ得ない。