そのエルドアン大統領は11月22日の会見で、利下げこそがインフレ抑制につながるという自身の経済観を改めて語るとともに、通貨安が欧米諸国によって仕掛けられたものであるという趣旨の主張を行った。いわば「陰謀論」を展開したわけだが、こうした大統領の発言が市場の失望につながり、23日のリラ相場の急落につながった。
成長力のあるトルコ経済が伸び悩む最大の理由
貿易収支がエネルギーを中心に赤字であるトルコの経済にとって、通貨の安定は生命線だ。にもかかわらず、エルドアン大統領は荒唐無稽な理屈を振りかざして通貨の安定を自ら放棄している。通貨の安定を決めるのは、トルコ政府に対する内外の信認だ。つまりトルコ政府に対する内外の信認は、日に日に落ちていっていることになる。
高いポテンシャルがあるにもかかわらずトルコの経済が伸び切らない最大の理由は、こうした通貨の不安定さを克服できないことにある。一方でトルコ国民は、度重なる通貨危機の教訓から米ドルやユーロなどの外貨、さらには金(ゴールド)や不動産などを購入することで資産の防衛を図る。これは幅広い意味で「ドル化」と呼ばれる現象だ。
現金が通貨安や高インフレで日に日に価値を失う世界では、人々は自動車や住宅など資産性が高い耐久消費財を購入して資産防衛を測る。しかし足元では、中古車や中古住宅の売り主がインターネットの販売サイトから続々と広告を引き上げているという。売り手の立場からすれば、日に日に下落するリラなど不要というところだろう。
他方で、資産防衛の対象は家電製品にも広がっているようだ。クレジットカードの信用供与額を家電製品の購入に限定して見ると、2020年に入って急激な増加が確認できる(図表2)。物価の急激な上昇が続くトルコの場合、分割払いを選択すれば完済までの負担が軽減できることも、カード払いによる家電購入を刺激しているとみられる。