心を鍛えることにも繋がる練習

練習の質を高めるために、選手には「なぜその練習を行うのか」を必ず説明して、コーチと共有しています。

以前は「千本ノック」と呼ばれていた「特守(特別守備練習)」。やらせる側のコーチもきちんと目的を理解できていなければ、選手にしんどい顔をさせて練習させた気になるという自己満足で終わってしまいます。私は特守を必要な練習だと考えていますが、実施する理由をコーチが正しく認識し、その上で選手にきちんと説明してからやらせることが大事だと思います。

この「特守」の大きな目的は基礎体力、下半身、そしてメンタル面の強化です。様々なスピードの打球があらゆる方向に飛ぶので、それを追いかける選手の身体の動きも非常にランダムになります。ウエイトトレーニングであれば特定の方向にしか身体を動かせませんが、特守では実際の守備動作の中で様々な筋肉を鍛えることができるのです。

「選手がフラフラになるまで打球を追わせる意味があるのか」という理由で特守は批判されることもあるのですが、自分の限界まで振り絞らせることで力の最大値を引き上げることができると私は考えています。

ランニングなどの単調なトレーニングでは、限界まで追い込むと心理的な負担が増してしまいますが、ボールを追うという複雑な動きのお陰でしんどさは少し紛れます。そして、そういう単調にはなり得ないトレーニングでフラフラになるところまで身体をいじめ抜くことで、心を鍛えることにも繫がると考えているのです。

このようなことを選手に説明し、理解してもらった上で取り組ませなければ、ただ身体を漫然と動かしているだけということになり、練習の効果は上がらないままになってしまいます。

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体力的な限界を超えさせる

伸びていく選手は日々、自分の限界を超えようとしています。自分の限界を高めていくためには、日々の練習においてその時点での最大値以上の力を振り絞っているかどうか、が非常に重要です。私はこれを「限界突破論」と名付けています。

例えばランニングで追い込む練習メニューの場合、足の速さは人それぞれ違うので、全体に設定した目標タイムに入れているかどうかはそこまで重要ではありません。それよりも、その時点で出せる力を全て出し切って走っているかということの方が遥かに大事です。

全力を出し切っていれば、歩くこともできずに倒れ込んでしまうはずです。練習では、選手のそういう部分をよく見るようにしており、限界まで追い込めていないと感じられる選手に対しては、厳しく伝えるようにしています。

限界まで力を振り絞れているかどうかは、選手本人が自覚できていないこともあります。気持ちの面でしんどいと感じてしまうことで、体力的にはまだ余裕があるのに身体を動かせない状態に陥ってしまうのです。だから選手にはいつも、キツくて限界だと感じた時に、さらにもう一歩だけ力を出す意識を持とう、と伝えるようにしています。

そして、そうした時にきちんと聞く耳を持てるかどうかも重要です。

なかには、「僕なりには全力を出し切っています」「限界まで頑張るとか得意じゃないんで」というような意識で、コーチの言葉に素直に耳を傾けずに行動を変えない選手もいます。結局それでは、いつまで経っても力の底上げはできないままなのです。

しんどいから全力を出し切った、という風に考えてしまうと、限界値はいつまで経っても高くはなりません。選手の力を引き上げるためにも、毎回体力的な限界を超えさせるという点を意識しています。