年間300万円~500万円費やし、全力を尽くしたけれど
坂梨さんが試みていた不妊治療は体外受精の中でも高度な顕微授精で、身体への負担も大きかった。夫は辛い気持ちを支えてくれたが、幾度やってもうまくいかず、その度に高額な治療費も無駄になってしまう。年間300~500万円を費やしたけれど、妊娠には至らない。いよいよ30歳が目前に迫る頃、妊活の日々を振り返ったという。
「全力を尽くしたけれど、自分の意思ではどうにもならなかった。唯一、子どもをもつことだけは30歳までに果たせなかったんですね。次はどうしようと考えたとき、もう年収は目標じゃなかった。それまでの仕事は食べていくためのライスワークだったけれど、30歳からの10年間は一生添い遂げられるようなことにチャレンジしたいと思い始めていました」
6年携わったメディア運営では子会社社長まで務め、十分にやり切ったと思えた。ならば独立して起業しようと決意。ライフワークにするなら、「自分」をターゲットにした事業がいい。そう考えたときに「不妊治療をしてきたじゃないか」と気づく。その辛さも経験してきたからこそ、同じように不妊に悩む女性たちをサポートすることができるのではと。
あの時間が無駄にならないように
坂梨さんは不妊の悩みを誰にも話せなかった。同世代の友だちはどんどん結婚し、出産する人も増えていく。「あなたは子どもを産まないの?」と聞かれると、「まだお互いに仕事が忙しいから」と笑顔でかわしても、胸が痛む。隠せば隠すほど苦しくなり、そんな自分を解き放ちたいという思いもあった。
「不妊治療は4年ほど続けたけれど、たぶん私は今後も身ごもれない可能性が高いと思う。そうなったときに後悔だけを残して終わるより、誰かの笑顔につなげることができていたらいいと思ったのです。『子どもを産みたいのなら、早くチェックした方がいいよ』とか『ちゃんと生理は来ている?』とアドバイスできるようになれたら嬉しい。そうじゃないと、あの時間が本当に無駄になってしまうから」