※本稿は、村井俊哉『はじめての精神医学』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。
過度なダイエットをあおる社会の風潮が影響か
神経性やせ症、神経性過食症は、両者を合わせて摂食障害としても知られている病気です。特に女性についてそうなのですが、過度なダイエットをあおる社会の風潮が、過度な「やせ願望」をもたらします。
こうしたことが大きな原因となっていることから、統合失調症や自閉スペクトラム症と比べると、「社会がどうあるか」ということの影響が特に強い病気です。
やせすぎの女性モデルの死亡が各国で相次いだことから、欧米では具体的な規制が始まっています。
いくつかの国がファッションショーへの出演を禁止している「やせすぎ」の基準は、BMI18.0〜18.5以下です。BMI(Body Mass Index、ボディ・マス・インデックス)とは、「体重kg/(身長m)2」で計算されますが、ファッションショーの出演禁止の基準とされているBMI18.0とは、身長165センチメートルの場合49キログラム、160センチメートルの場合46キログラム、155センチメートルで43キログラムということになります。
ダイエットに関心のない人が発症することもある
これらの数値は、その体重が理想的という意味ではなく、それを下回ると「危険」という赤信号です。ちなみに、健康とされる普通体重の範囲はBMI18.5〜25.0範囲です。普通体重上限のBMI25.0は身長160センチメートルの人で64キログラムです。
各国が設け始めているこのような基準は、モデルを職業とする人、モデル志望の人の健康を守ることだけでなく、モデルの容姿は一般の人たちの憧れの対象となることを考えると、一般の人たちの健康を守るためにも重要です。残念ながら、日本はこのような流れに対して後れを取っています。
ただし、摂食障害は「社会があおる、やせ体型の過剰な礼賛」ということだけでは説明ができず、美容という意味でのダイエットに関心のない人で起きることも多いのです。
女性に圧倒的に多い病気で、男性は女性の10パーセント未満、また、生涯有病率(一生の間に病気を持つ割合)は、神経性やせ症、神経性過食症のそれぞれで、1パーセント前後という報告があります。