手足を縛って強制的に栄養補給する場合も

現実には、神経性やせ症により、入院が必要なほどの低体重になると、身体の病気としても重症、さらに、心理支援など精神科の治療も最も手厚いものが必要となります。こうした病気を持つ人が必要な治療を安心して受けられるよう、将来、医療制度面で、一般医療と精神科医療の垣根を流動化するような抜本的な改革がなされることを願っています。

村井俊哉『はじめての精神医学』(ちくまプリマー新書)
村井俊哉『はじめての精神医学』(ちくまプリマー新書)

低体重が進むと様々な身体の症状がみられます。立ちくらみ、月経停止、脱毛、低血糖などです。

これらの症状が出ると要注意で、医療機関への相談が必要です。低体重が著しくて入院となる場合、治療として何をするかというと、(言わずもがなかもしれませんが)低栄養による急死を防ぐために栄養の補給を行います。

ただ、この栄養補給は簡単なことではありません。当の本人が体重増加をひどく怖れているわけですから。であれば手足を縛って強制的に栄養補給を行うのか、といえば、本当に生命に危機が迫っていたらそうすることもあります。

けれども、結局、そうした治療にしてもいつまでも続けるわけにはいきませんし、その治療が終了したら、苦労して増やした体重など、本人が減らそうと思えば、わずかの期間でまた失ってしまうことになります。結局のところ、わずかにでも、本人自身の治りたいという意志、動機がないと治療は難しい、ということになります。

「元気になったときに何がしたいか」をイメージできることが大切

病気の定義上、本人がやせることを願っている病気なので、本人の側に体重を戻そうという意志や動機などないのではないか、と思われるかもしれません。

しかし、現実には、心の中の9割以上は体重を減らしたい、と思っていたとしても、低体重が進む中でからだの苦痛も感じるようになることもあって、心のどこかには「このままではいけない、体重を戻して元気になりたい」という気持ちが隠れています。

矛盾する二つの気持ちの中で本人が立ち往生しているときに、その支えとなり、元気になりたいという気持ちを応援するのが、この病気の心理療法の役割になります。

「元気になった」暁に、体重や体型のこととは全く別の、その人がやってみたいこと、大切に思っていること、をイメージできるかどうか、が治療の鍵となってきます。行きつ戻りつの長い治療になります。

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